2016年09月29日 朝日新聞 『(あすを探る 家族・生活)「親子断絶」防ぐ法案に懸念 赤石千衣子』
超党派の国会議員による議員連盟が、離婚後の「親子断絶」を防ぐ法案を準備し、開会中の臨時国会で提出を目指すという。「家族のあり方」を決める重要な法案であるのに、多くの問題を抱えている。
法案は、父母の離婚や別居後も「子が両親と継続的な関係を持つこと」が「子の最善の利益に資する」とする。離婚する父母ログイン前の続きは、離婚後も子と会う「面会交流」や、養育費の分担について書面で取り決めることを努力義務とする。国や地方自治体の面会交流支援や子の連れ去り防止などの啓発も盛り込んだ。児童虐待や配偶者への暴力がある場合の「特別の配慮」も求めている。
そもそも、なぜこうした法案が出てきたのだろうか。
家制度のあった戦前の流れで、戦後も離婚すると婚家に子を残して家を出ざるを得ない母親が多かった。次第に子を引き取る母親が増え、現在は約8割の母親が子を引き取る。
最近、離れた子とかかわりをもちたいという父親が増えている。家庭裁判所に面会交流をめぐって申し立てられた調停の件数は10年前の2倍以上になった。2011年の民法改正で、協議離婚の際に、面会交流と養育費について子の利益を最優先に協議で定めると明記された。家裁は調停などで原則面会交流を実施させるようになった。
離婚後も親子関係を維持することはよいように思える。ただ、現実には困難な場合が多い。母親が父親から暴力を振るわれたり、子が虐待を受けたりする家庭は少なくない。しかし、家裁の調停で、DVや虐待があっても面会が行われる例は多い。
法案は、児童虐待などに「特別の配慮」を求めているが、具体的な配慮の内容は保障されていない。
子と同居する親に、定期的な面会交流を維持するよう求めているが、親子関係は、一方の親の努力だけでは維持できない。別れた親にも「高額の贈り物をしない」など面会時の約束を守らせる規定も必要だろう。
子を連れて別居することを「連れ去り」と考え、防止を啓発するというのも現実的ではない。子の世話を主にする親が連れて家を出るのも「連れ去り」と称して防止すれば、世話が必要な子を置いて別居せざるを得なくなる。
法案は、別居する親との交流も子の権利とする「子どもの権利条約」を根拠としているという。しかし、条約が保障する、子どもが「自由に自己の意見を表明する権利」には触れていない。子が「会いたくない」と思ってもその意見は聞かず、別居する親が面会を望めば従わせられるようにも読める。
また、ひとり親家庭の貧困率は12年時点で54・6%(13年国民生活基礎調査)にもなる。生活の安定も「子の最善の利益」のために不可欠であるから、養育費不払い時の対応についても、法案で言及されるべきだろう。
親同士の対立が激しい場合、面会のための話し合いが成立しないこともある。「家庭問題情報センター」(東京都豊島区)など、相談を受けたり、面会時に付き添ってくれたりする支援機関があるが、全国に数カ所しかない。費用も1回の利用で数万円かかることもある。まずは、支援の拡充整備が必要だ。
そして、この法案は「家族のあり方」を問うものでもある。
家族や子どもをめぐる法律は、2000年代から、家族の多様性や個人を尊重し、家族内で暴力や虐待があった場合、個人を保護する方向で整備されてきた。配偶者暴力防止法や児童虐待防止法がそうだ。「父母と継続的な関係を持つことが子の最善の利益に資する」として、一方の親にだけ努力義務を課し、子の意見も聞かない法律ができれば、20年以上前に時計の針を戻すことになる。
子の最善の利益とは何か。家族とはどういうものか。幅広く、慎重な議論が行われるべきだろう。
(あかいし・ちえこ 1955年生まれ。NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長)
当該記事への反論、反対意見が専門家である弁護士や元家裁調停委員からブログや朝日新聞に寄せられていまので、是非ご覧ください。
平成28年10月6日 朝日新聞 『(声)離婚後の親子の面会交流は大切』
2016年09月29日 土井法律事務所(宮城県)ブログ 『【緊急】9月29日付朝日新聞赤石千衣子氏の親子断絶防止法案に対しての懸念に意見する』