【2012.07.08】 親子ネット講演会 レポート 『子どもの連れ去り』『親子引き離し』は児童虐待!
5月19日に開催された講演会『「子どもの連れ去り」「親子引き離し」は児童虐待!』は、参加者が90名という盛会となりました。
開会にあたっては、衆議院議員の馳浩先生から祝辞を賜り、馳先生の秘書の天野様にご出席いただき、ご挨拶も頂戴いたしました。
本レポートで、当日の様子をお伝えします。
【衆議院議員の馳浩先生からの祝辞】 |
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馳浩先生秘書の天野様からご挨拶
本講演会の様子は、TBSの「報道特集」でも報道されました。
1. 代表挨拶
本日は、遠方から多数お越しいただき有難うございます。皆さんの大半は子に会えない、または会いにくい状況になっている方々かと思います。考えもしない、思いつきもしなかったことに直面し、どこに相談しても解決できないもどかしさを感じていらっしゃることかと思います。
今年の4月の民法改正において「面会交流」の文言が明文化され、ようやく離婚は縁切りではないという風習が社会に伝わってきました。また、4月から新聞やテレビでこの問題が多数取り上げられるようになり、“子の福祉って何だろう”と正面から報道する機会が明らかに増えてきています。
本日は「子の連れ去りや引き離し」について、様々な角度や視点から、分析、討議したいと考えております。
代表 藤田尚寿の挨拶
2. 離婚の子どもの立場から(中田和夫氏)
<片親と会えなかった経緯>
インターネット「mixi」内で、子ども時代に両親が離婚した人を対象としたコミュニティ(3,800人参加)の管理人を6年やっている。ご自身は、乳児期に父母が離婚し、引き取った父親や祖父母から「母親は死んだ」と伝えられ、事実を知ったのは高校生の時であった。母親の記憶がなく、また母親がいないことが当然であった家庭環境で過ごしてきたこともあって、母親を探したり、会おうとする意思は湧き出てこなかった。
しかし、就職し社会人となった直後に対人恐怖症や鬱症状が出始め、心理専門のカウンセリングを受け続けた後、26歳の時に自分のルーツを求め、自力で母親を探し出し、再開を果たしている。
<「mixi」コミュニティ(離婚を経験した子ども?)内の会えなかった別居親への反応意見の集約結果について>
「会えなくてつらいと表明する声は限定的であった」
その理由は3点あると考えている。
① 本当に会いたい気持ちはあるが、そのことをこれまで言えなかったし、言いづらい
② 長い間、会いたい気持ちを押し込めてしまっているうちに、意識の間から抜け落ちてしまっている。
③ コミュニティのメンバーの大半が成人している。
<父母が離婚する際に子どもの立場として求める要望>
① 現実を歪めないでほしい。別居親が、どこで暮らしていて、子どものためを思っていることなどの事実があれば、きちんと伝えてほしい。
② 別居親へ会いたいという意識が、会えない期間が長期化することで軽薄化しないためにも、別居親と面会交流をする機会があることが、子どもにとって望ましい。
離婚を経験した子どもの立場を話す中田和夫氏
3. 保育の現場で子どもと接してきた立場から(梅津なみえ先生)
<子どもの性質について>
日本では、子どもはお母さんの従順物という感覚があるが、「子も1人1人が人格を持っている」ため、親はそれに配慮しないといけない。親の考えの行き違いで紛争が起こっても、「子どもは子ども」であり、夫婦とは別に考えられないものだろうか。係争中であっても、子どもは会わせるべきである。また、祖父母が一緒になって別居親を誹謗中傷するタイプが見受けられる。子ども視点で対応できないものだろうか。
一方、「子は大人の背中を見て育つ」ものである。そのことについても親は子に配慮しなければならない。子は親の背中を出発点にし、親と自身の比較によって成長していくものであり、お父さんとお母さんの生き方は、子どもに大きく影響する。
また、親からの影響によって子どもがどう揺れ動くか、年齢によって異なるものである。日々夫婦喧嘩している家庭環境の子どもは、乱暴だったり、情緒不安であることが多い。
<支援活動している面会交流の実態について>
まず、裁判所の判断までに至る経緯が長すぎる。また、判断内容も「月に1回○時間」など応用性、発展性がなく、子どもの成長に見合った内容ではない。具体的に言うと、3歳児のお子さんでは1、2時間で満足できる内容であることもあるが、5歳以上になると遊ぶ内容も変わるため、あまりにも1、2時間では少ない。
時間の拡大を双方の親に提案しても、それぞれの同意が必要なため、実現しない状況が多く見受けられる。今後は子どもの成長に見合った面会交流の取り決めが望ましい。
保育の現場から親子交流の重要性を強調する梅津なみえ先生
4. 片親疎外研究の専門家、研究者の立場から(青木聡先生)
連れ去り・引き離しはアメリカでは「誘拐罪」であり、子どもへの影響は間違いなく悪影響であることが深く認識されており、それを議論することすらない環境である。引き離しや片親疎外の子どもの反応や影響について、以下のようなアメリカの研究結果がある。
<乳幼児を母親と一時的に引き離す、ストレンジ・シチュエーション法の実験結果について>
※ ストレンジ・シチュエーション法の手順
1) 乳幼児と母親が部屋に入る
2) 見知らぬ人物が部屋に入ってくる(ストレンジ状況)
3) 母親だけが部屋を出る(分離/引き離し)
4) 一定時間後に、母親が部屋に戻る(再会)
この実験による乳幼児の反応は、以下の4パターンに集約される。①安定型(分離に再会を喜ぶ)②回避型(分離と再会に無反応)③抵抗/両価型(分離に激しく抵抗し、再会には激しく拒絶。しかし、抱かれるとしがみついて離れない④混乱型(無反応だったり、過剰に抵抗/拒絶したりで一貫性がない。
この研究結果を「アタッチメント」(関係性の中で情緒的安心感を得ている状態)に当てはめると、以下のようになる。①安定型→アタッチメント行動を適切に行う②回避型→アタッチメント行動を使わない③抵抗/両価型→アタッチメント行動を過剰に使う④混乱型→アタッチメント行動の使い方が分からない。この結果から、子どもの信号に対する母親(養育者)の敏感性について、鏡のような情動調律が重要で、いかに両親(複数の養育者)の存在が重要か読み取ることができる。
<引き離し・片親疎外による子への影響について>
アメリカ国内では、引き離し・片親疎外についての統計上の研究も盛んに行われており、以下のような研究結果が明らかになっている。“引き離しによる子への直接的な影響”は、片親やその親族などを失うことによる「喪失体験」→「悲嘆反応」、また「内面化」→「自己否定」によって、別居親に対する否定的な印象が作り上げられる。
また、これらの傾向は、幼少期でも3歳以下ではあまり出ず、4歳以上になって生じてくる傾向が強い。
“片親疎外による心理的影響”については、「自己肯定感の低下」「抑うつ傾向」「アルコール依存傾向」「アタッチメント行動の混乱型」などの症状がでることが浮き彫りになっている。
また、引き離し後の監護状況が安定している場合において、2つの家を行き来する生活によって、子どもは混乱するのではないか?と懸念することは、日本国内において監護する親がよく指摘しがちな内容であるが、研究結果は、「面会交流を実施しているほうが、情緒面、行動面、学業面のすべてにおいて、評価点が高い」ことが、統計学の観点からも揺ぎ無い結果となっている。
<子育て時間と情緒的安心感の関連性>
この研究は、子どもと交流する頻度や時間によって、どの水準から「情緒的安心感」が高まるかを研究したものである。面会交流の時間や頻度が少ない場合、子どもが抱く不安や不信感、苛立ちなどから、「情緒的安心感」が低下する傾向が浮き彫りとなっている。
この研究結果では、子どもの「情緒的安心感」が上向くのは月に4日~6日の頻度で面会交流を行うことで、はじめてマイナスからプラスに転じる内容になっており、日本で一般的な月1回数時間の貧困な面会交流などでは、むしろ「情緒的安心感」が低下することを示す結果となっている。
この研究結果は、引き離された親子再統合のためには、“アタッチメント”を長い時間をかけて育む必要性を如実に表している。
子育て時間と情緒的安定感の関連性
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補足1)縦軸が情緒的安心感と子育て時間の相関係数(関連の度合い)、横軸が子育て時間(面会交流)の頻度(月に何日)、を表しています。
補足2) 相関係数というのは、-1~+1のあいだの値をとります。マイナスの値は負の相関、プラスの値は正の相関になります。±1に近いほど相関は強くなり、0は相関がありません。
補足3)この研究を通じて、子どもが別居親との関係に情緒的安心感を経験するには、最低でも月に4~6日の面会交流が必要ということがわかりました。だから、隔週2泊3日の面会交流が必要なのです。月に1~3日の面会交流だけだと、むしろ緊張感が経験されてしまう(負の相関)ということが示されています。
当日配布した青木聡教授の資料はこちら
連れ去り・引き離しの子どもの心理と成長への影響について講演する青木聡教授
5. 弁護士の立場から(小嶋勇弁護士)
<民法改正のガイドラインについて>
連れ去り・引き離しについて、一般社会では問題としての認識はまだまだ低い。ただ、2012年4月の民法改正による面会交流のガイドライン化によって、家庭裁判所の現場レベルでも期待以上の効果が出てきている。調停などにおいて、書面を提出し、活用すべきである。
<現在の法制度と親子関係について>
別居中は、当然、共同親権、共同監護であるにも関わらず、事実上の単独親権・監護となっている。離婚後の非親権者の地位についても、十分に議論がされているとはいえない。子どものためにも、非親権者は、子どもを監護している親を監視、見守る権利を有するべきである。
また、親権と監護権の分属は、現行制度でできることであり、審判や判決など家庭裁判所の判断では分属が認められることは少ないが、調停を活用し、もっと主張すべきである。
<連れ去り・引き離しの法的問題について>
裁判所の親権者を定める判断で「母性優先」がよく用いられるが、男女平等に反する性別による差別であり、憲法違反である。また、「現状維持」についても、連れ去りそのものが一方的な同居義務違反の違法行為であるにも関わらず、違法状態の継続を尊重することが正しい判断と言えるのか。さらに、「子どもの意志の尊重」についても、子どもの真意をどのように確認するのかが大きな問題といえる。
<解決の道筋について>
民法改正後、家庭裁判所の体質は徐々に変わってきているが、審判や判決で隔週2泊3日などの条件が出ることはほとんどない。親権・監護権の分属についても同じことが言えるが、審判や判決にせず、調停の段階で有利な条件を勝ち取ることが、有効で賢い手法である。
また、面会交流の条件も曖昧なものにせず、もし不履行になったときに権利を主張できるよう債務名義になるような基準をしっかり明記すべきである。調停での解決のポイントは、「子どものためにどれだけ譲歩できるか(太陽政策)」、「子どもが関わる問題に勝ち負けはない(チキンレースを避ける)」であり、この2点を留意すべきである。
連れ去り・引き離しの法的問題について説明する小嶋勇弁護士
6. 総合討論と質疑応答
論点1「連れ去り、引き離しで子どもがどれだけ傷ついているか」
弁護士:18歳の時に父が出ていき、母親による軽い父の疎外を受けたこともあり、29歳の現在まで父とは会っていない。父が出て行った当初、父から定期的に電話がかかってきたが、母親が否定的であったことと、父母の紛争に巻き込まれたくない思いから電話に出なかった。そのとき、出てあげればよかったと後悔している。片親疎外の影響としては、社会に出て気づいたことだが、年上の男性とうまく関係が作れないことが関連付けられるのではないかと思う。
青木:引き離しによって、別居親に対する否定的な印象が作り上げられてしまう。それによって、自己肯定感の低下、抑うる傾向などが生じてしまう。子どもは両方の親とペアリングプランを行う必要性がある。引き離しによって傷ついた子どもはまだ健全である。むしろ、自覚がなく、傷ついていないように見える子のほうが深刻といえる。
梅津:青木さんの言うように、自分の気持ちを表面に出し暴れてくれる子どものほうが、まだよいと思う。また、お子さんからしてみれば、この人(母親)に盾ついたら守ってもらえない、生きていけないと思ってしまうもので、これは子どもの保身、臭覚として自然なものである。
論点2「親の離婚や別居を知った時に子どもはどう思うのか」
笠原(司会):アンケート結果を紹介
アンケート結果(クリックするとpdfファイルでご覧いただけます)
中田:mixiのコミュニティは成人が対象であり、両親が離婚、ないし別居した当時のことについての意見はあまり出てこないし、内容もケースバイケースだと思う。このテーマについては、リアルタイムの子どもの立場の研究が必要だと思う。
青木:アメリカの親教育セミナーでは、離婚する際に子どもにきちんと説明し、父母双方が今後のシナリオを作成し、①子どもは両親が愛し合って生まれた②離婚することになったけど君のせいではない③今後の見通しを作成(一緒に暮らせなくなるけど、これぐらいの頻度で会えるんだよ等)子どもに安心感を与えるようにしている。
論点3「子どもの傷を最小限にするためにどうすればいいのか」
青木:アメリカの調停では「養育プラン」を両親が提案し合う。また、監護者を定める上で「友好親優先プラン」があるが、この制度は子どものために有効であることは明らかである。
弁護士:「養育プラン」は、協議離婚が多い現在の日本では難しい面もある。しかし、「養育プラン」の義務化は、とても子どものためになる。「友好親優先」については、民法の家族法の教科書に実は書いてある。しかし、実務上、考慮されていない。“継続性の原則”は大きな問題で、この原則は除去されるべきである。
小嶋:実際に「友好親優先」は教科書に載っている。「養育プランも言えないような親では」という認識も裁判所には必要である。
7. アピールの採択
「養育プラン」と「友好親優先ルール」を導入するなど、離婚時の親教育を充実させることの必要性に言及し、副代表の鈴木裕子が、「子どもの連れ去り、親子引き離しを禁止する法整備を求めるアピール」を読み上げ、閉会となりました。
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アピールを読み上げる副代表の鈴木裕子
本アピール内容で、国会請願するため署名活動を開始しました。