家裁通信簿 ~民法766条改正で家裁は変わったのか~
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1.「家裁通信簿」の実施にあたって
親子の面会交流を実現する全国ネットワーク(略称:親子ネット)は、2008 年 7 月発足以来、離婚後の親子が自然に会える社会の実現に向けて、様々な取り組みを行って参りました。現在の会員数は500名を超え、日々のホームページからの悲痛な叫びや相談、問合せは後を絶たない状況です。
親子ネットのような当事者団体が大きくなっていく背景には、別居や離婚によって、親子の関係が日夜断絶させられているという悲しい現実があります。
平成23年の通常国会で「民法等の一部を改正する法律案」が衆参議員の全会一致で可決されました。これに伴い、最高裁事務総局家庭局長は、全国の高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所に対して、改正民法に関する議事録等について書簡により周知を行いました。続いて、同家庭局第一課長からは高等裁判所・家庭裁判所の事務局長あてに「民法等の一部を改正する法律に関する国会審議の会議録の送付について」と、平成24年3月には、家庭裁判所事務局長へ「面会交流が争点となる調停事件の実情及び審理の在り方 -民法766条の改正を踏まえて-」(家庭裁判月報第64巻第7号に掲載予定)を送付しています。また、しばらくおいて、平成26年3月に、同家庭局第二課長から高等裁判所・家庭裁判所の事務局長あてに「面会交流事件の運用について」通達しています。
裁判所がこれらを直ちに受け容れ、改正民法の主旨にそった運用を始めることができていたなら、あちこちの家庭裁判所で「子の利益を最も優先して考慮した結果、年間100日の面会交流を認めるものとする」という審判が出始めるはずでした。しかしながら、未だに、ただの1件も年間100日の面会交流を認めた審判はありません。どんなに近くに住み、同居時の親子関係が非常に良好で、両方の親が家事、育児を分担していた夫婦であっても、家庭裁判所に持ち込まれた案件は、月1回数時間の「相場」に落とし込まれるのです。
これでは民法改正の意義があったといえるのでしょうか…
この「家裁通信簿をつけよう」の取組みはそんなところから始まりました。「裁判所ユーザー」である私たちが、民法改正前と後それぞれで、裁判所で関わった方々を評価させていただきました。しかしそれはただの感情論ではなく、改正民法に諮る設問を工夫し、家庭裁判所の運用を客観的に明らかにするよう努めました。
平成26年3月18日、保岡興治先生を会長とし、馳浩先生を事務局長に、超党派の国会議員による「親子断絶防止 議員連盟」が設立され、総会、勉強会が続けられています。真の「子の最善の利益」のため、離婚後の親子断絶のない社会への転換に向けて立法化を切望します。
この「家裁通信簿」が、離婚や面会交流など子どもの養育に関わる事件で裁判所に関わる方や、有識者の方々、マスコミ関係者など、多くの方に見ていただけることを願います。また、「親子断絶防止 議員連盟」でも参考にしていただけると幸いです。
前代表 鈴木裕子
2.調査の趣旨
2011年6月3日、「離婚の際は、子どもの利益を優先させ、子どもとの面会交流や養育費を定めること」が766条に明記された民法改正が公布され、翌年の2012年4月1日に施行されました。
民法766条改正前 | 民法766条改正後 |
---|---|
1.父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者その他監護について必要な事項は、その協議で定める。協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。 2.子の利益のため必要があると認めるときは家庭裁判所は子の監護をすべき者を変更し、その他監護について相当な処分を命ずることができる。 3.前二項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更は生じない。 |
1.父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。 2.前項の協議が整わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同事項を定める。 3.家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。 4.前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。 |
では「子の利益」とは何をさすのでしょうか。これについて、当時の江田法務大臣は衆議院法務委員会で、「(父母が高いストレス状態であったとしても)親と子というのは大切な関係だから、面会交流を子の利益のため、子の福祉のため是非実現するように努力をしようということが家庭裁判所の調停、審判における方向だとこの法律は示している」等と回答しています。
民法766条改正の趣旨が守られ、本当に家庭裁判所が変わったのか、評価することにしました。
前会長 藤田尚寿(調査責任者)
3.調査の方法
■調査対象:
離婚や面会交流など子どもの養育に関わる事件で裁判所に関わった方。
■調査内容:
民法766条改正の趣旨に関わるもの全11項目。内、国会での答弁が守られているかどうかに関するも5項目。面会交流の頻度・時間に関するもの2項目。裁判官、調査官、調停委員、弁護士に関する行動評価が4項目。
■調査時期:
2011年秋~2014年春
■調査方法:
親子の面会交流を実現する全国ネットワークのホームページでアンケートを実施(https://oyakonet.org/family-court)。有効回答は男性84名、女性24名の計108名。内、民法公布前のデータが24、民法公布後のデータが84。
4.質問事項
<Q1> 家裁は可能な限り面会交流の実現に努めたか
<Q2> 家裁は夫婦の葛藤を理由に面会制限をしていないか
<Q3> 家裁は子どもの発言を理由に面会制限をしていないか
<Q4> 調査官は親子の再統合のことまで考慮しているか
<Q5> 家裁は夫婦の葛藤を理由に面会制限をしていないか
<Q6> 裁判所を通して年間何日の面会交流を保障されたか
<Q7> 宿泊面会はあるか・一回あたりの面会時間
<Q8> 裁判官の民法改正の趣旨に照らし合わせた行動評価
<Q9> 調査官の民法改正の趣旨に照らし合わせた行動評価
<Q10> 調停委員の民法改正の趣旨に照らし合わせた行動評価
<Q11> 弁護士の民法改正の趣旨に照らし合わせた行動評価
5.結果概要
■民法766条改正の趣旨について、国会での答弁が守られているか
・民法改正の趣旨が裁判所に伝わっていないと感じる人が80%を越えている。
・民法公布後、家裁(その他の裁判所含む)が可能な限り面会交流の実現に努めていないと感じる人が増えた。民法公布後に「努めていない」と回答した人が80%を越えた。
・「民法改正後も裁判所の運用は変わっていない」、「面会交流に実現に努めていない」と感じる理由は、次の3点に集約される。①裁判所関係者が親子交流の断絶期間の影響度に関して無理解で他人事のため、②監護者の主張する対応に終始するばかりで面会開始まで非常に時間を要し、③ついには裁判所が勝手につくりあげた相場観で月1回の最小面会に落とし込まれる。
・調査官の仕事に対する評価は非常に低い。親子再統合まで考えて仕事をしていると感じる人は、民法公布後でもわずか9%(評価者不在を除く)。
■面会交流の頻度と時間
・民法公布後も、月1回以下の面会しかできない人が84%。面会が全くできない人が35%いる。その半数は、審判・裁判により面会を認められなかった。
・民法公布後、宿泊面会ができるようになった人の割合は微増。
■裁判官、調査官、調停委員、弁護士に関する行動評価
・4対象とも、「適切ではない」の評価が85%を超えた。
・調査官に対する評価が明らかに悪化。
・相手方弁護士の行動を、「不適切」と考えている人が非常に多い(86%)。
回答者の属性
■有効サンプル数:108
事件の内訳と種別
■有効サンプル数:108
家裁は可能な限り面会交流の実現に努めたか
<Q1>
江田法務大臣は民法改正の趣旨について、「面会交流は子どもの福祉にとって大切なことであり、よほどの事がない限り奪ってはいけない」と説明しているが、家裁(その他の裁判所含む)は可能な限り面会交流の実現に努めたか。
<結果>
民法公布後、家裁(その他の裁判所含む)が可能な限り面会交流の実現に努めていないと感じる人が増えた。民法公布後に「努めていない」と回答した人が80%を越えた。
家裁は夫婦の葛藤を理由に面会制限をしていないか
<Q2>
江田法務大臣は、「父母の方がこんなに子どもについていらいら状態にあるのに面会だ、交流だなんてどんでもないというような判断をするのではなくて、そういう状況であっても、親と子というのは大切な関係だから、面会交流を子の福祉のため、子の利益のために実現するようにするのが、家裁の調停または審判の努力の方向であることをこの法案は示している」と発言しているが、家裁(その他の裁判所含む)は夫婦間の葛藤を理由に面会制限をしていないか。
<結果>
家裁が夫婦間の葛藤を理由に子どもとの面会制限していると感じる人は減ったが、民法公布後も面会制限をされていると感じている人が70%いる。
家裁は子どもの発言を理由に面会制限をしていないか
<Q3>
家裁(その他の裁判所含む)は、子どもが会いたくないといっているということを理由に面会制限をしていないか。
<結果>
民法公布後、子どもが会いたくないといっているということを理由に面会制限は減った。しかし、未だに「制限されている」と回答した人が45%。
調査官は親子の再統合のことまで考慮しているか
<Q4>
江田法務大臣は、「家裁調査官は、親子の再統合というようなことまで考えていろいろなことをやりますから、家裁調査官の仕事には大いに期待したい」と発言していますが、調査官は、親子の再統合ということまで考慮して仕事をしていますか。
<結果>
調査官の仕事に対する評価は非常に低い。親子再統合まで考えて仕事をしていると感じる人は、民法公布後でもわずか9%(評価者不在を除く)。「親子再統合を考慮していない」と感じる人が大幅に増加。
本民法改正の趣旨が、裁判所に伝わっているか
<Q5>
豊澤最高裁判所長官代理は、今回の民法改正について、「随時各裁判所に対して周知を行ってきた。今後更に法改正の趣旨を踏まえた事件処理が図られるよう、必要な情報の周知に努めていく」と発言していますが、本民法改正の趣旨が、裁判所に伝わっていますか。
<結果>
民法改正の趣旨が裁判所に伝わっていないと感じる人が80%を越えている。
裁判所を通して年間何日の面会交流が保障されたか
<Q6>
あなたは、裁判所を通して(調停/審判/裁判で)年間何日の面会交流を保障されましたか。
<結果>
民法公布後も、月1回以下の面会しかできない人が84%。面会が全くできない人が35%いる。その半数は、審判・裁判により面会を認められなかった。
宿泊面会はあるか・一回あたりの面会時間
<Q7_1>
裁判所を通して(調停/審判/裁判で)取り決められた面会交流に、宿泊は含まれますか。
<結果>
民法公布後、宿泊面会ができるようになった人の割合は微増。
<Q7_2>
宿泊ありの方は年間の宿泊日数を、宿泊なしの方は面会1回あたりの時間をご記入ください。
<結果>
面会1回あたり、丸一日(8時間)できる人の割合は民法公布後も変わっていない。宿泊面会できている人は少ないため結果は省略。
民法改正の趣旨に照らし合わせた行動評価(裁判官/調査官)
<Q8>
今回の民法改正の趣旨に照らし合わせて、子どもの福祉にかなう面会交流となるよう適切に行動しているかどうか、担当裁判官(審判官)を評価してください。
<結果>
裁判官の行動評価は横ばい。評価対象者不在を除くと、子どもの福祉にかなうように適切に行動していないと思う人が90%。
<Q9>
今回の民法改正の趣旨に照らし合わせて、子どもの福祉にかなう面会交流となるよう適切に行動しているかどうか、担当調査官を評価してください。
<結果>
評価対象者が増え、調査官の評価は悪化。評価対象者不在を除くと、子どもの福祉にかなうように適切に行動していないと思う人が57%→85%に悪化。
民法改正の趣旨に照らし合わせた行動評価(調停委員/弁護士)
<Q10>
今回の民法改正の趣旨に照らし合わせて、子どもの福祉にかなう面会交流となるよう適切に行動しているかどうか、担当調停委員を評価してください。
<結果>
調停委員の行動評価は横ばい。評価対象者不在を除くと、子どもの福祉にかなうように適切に行動していないと思う人が85%。
<Q11>
今回の民法改正の趣旨に照らし合わせて、子どもの福祉にかなう面会交流となるよう適切に行動しているかどうか、相手方弁護士を評価してください。
<結果>
評価対象者となる相手方弁護士が増加。評価対象者不在を除くと、子どもの福祉にかなうように適切に行動していないと思う人が91%。不適切と思う人が、86%と際立っている。
考 察
民法766条の改正と民法改正の趣旨に対する国会の答弁により、これで子ども達と会えるようになると期待した当事者も相当数いたと思われ、また親子ネットでもそう願った。しかしながら、民法改正後も裁判所の運用はほとんど何も変わらず、子ども達との断絶期間は途方もなく長く、やっと保障された面会が、多くても月一回。場合によっては裁判所から面会を禁止されてしまうことさえある。その間に別居前の子ども達の関係性は崩れ、親子再統合が修復不可能になってしまう。そんな経験をしている当事者からは、「家裁通信簿」の集計結果は当然であり、自分以外の当事者も同じだったかと思うに違いない。
調査官の結果が著しく悪いのは、当時の江田大臣の答弁への期待値が高かったためと思われる。当事者は、審判官・裁判官と比べて調査官と接する時間が長い。そのため、期待を裏切られたとの思いが働いたのであろう。調査官の言動は、調査報告書も含めて、審判官・裁判官の意向が存分に入っているのであるから、その批判は裁判官、あるいは裁判所全体に向かっていると解釈すべきである。
一方で、調査官の言い分はこうである。「民法の方が、私たちがやってきたことに追いついてきただけなので、今までと変わらないし、変える必要もない」。そう繰り返すばかりである。それが家裁の実態であるから、パート職員の調停委員が自発的に変革できるはずがない。「私たちにはどうすることもできません」そうここぼす調停委員がいるのも無理もない。調停制度そのものが、面会交流に対して何の機能もしていない。
「自分の子どもと会うのに、どうしてこんなに時間ががかかるのだ」、「何故すぐに会えないのだ」、「自分の子どもと会うの月一回が相当とはどんな理由で決めているのか」、素朴な疑問である。しかし、それがさっぱりみえてこないのが家裁であり、今もほとんど変わっていないことが本調査で明確になった。
本調査には、裁判所とは無関係であるが、弁護士に対する行動評価も追加している。クライアントの利益のためだとして、別居親と子どもを必死に引き離す弁護士が多数いることも再認識した。金儲けのためなら親子を不幸にしようとも何とも思わない、倫理観を欠いた弁護士がこんなに多く存在するのは非常に残念である。子どもの利益が何かを鑑み、かつてのアメリカの弁護士会がそうしたように、早期に弁護士会が自ら、親子交流を妨害する弁護を禁止すべきであろう。
提 言
民法766条の改正により、面会交流や養育費に関し、子どもの利益を最も優先して考慮しなければならないと定められた。当時の江田法務大臣は民法改正の趣旨として、「面会交流というのは、子どもの福祉にとっては大事なことであり、これを奪うというのはよほどのことがないとやってはいけないことだ」、「監護権のある親が面会交流に強く反対しても、特別な事情がない限り、可能な限り家裁は面会交流ができるように努める、これはこの法律の意図するところだ」と明言された。
しかしながら、民法改正の公布後も裁判所の運用がほとんど変わっていないことが、本調査により浮き彫りとなった。子の面会交流を制限する、あるいは実質的に禁止する審判や裁判が後を絶たない。
抽象的な法文を補足するために、その趣旨を国会で答弁しても、裁判所への効力が及ばない。民法改正前からやっている運用が明文化されただけだ」、「民法改正の趣旨など知らない」と発言する裁判所関係者も多く、運用を変える意志すらみられない。民法改正から2年が経過してもほとんど何も変わっていないのであるから、家庭裁判所に運用改善は期待できない。
別居・離婚後の親子の絆を守るためには、別居前の親子関係をそのまま維持することが不可欠であり、そのためには、別居から親子交流再開までのスピードと頻回の面会が非常に重要である。裁判所独自の特殊な考えや運用ができないように、次の項目を明確に盛り込んだ特別法が必要であると考える。
(1)別居や離婚の際に、養育費や面会交流を含めた「養育プラン」作成を義務化すること。
養育プランを守れない場合は、柔軟に監護者を変更できるようにすること。
(2)別居直後の面会交流を担保し、年間100日面会を一般化すること。
(3)監護者決定には、もう一方の親と子どもをより頻繁に会わせる「友好親」を優先させ、
面会拒否による継続性の原則を適用できないようにすること。