【2014.11.29】 親子ネット講演会レポート 「親子面会交流の重要性~乳幼児期の宿泊面会交流についての最新情報~」
2014年11月29日、青木聡先生の講演会を文京区男女平等センターにて行いました。青木先生には、面会交流の重要性を説く日本の第一人者として、かねてより何度も講演をお願いしてきましたが、今回は乳幼児期の宿泊面会交流についてアメリカの最新情報等を中心に講演頂きました。
演題:親子面会交流の重要性~乳幼児期の宿泊面会交流についての最新情報~
略歴:大正大学人間学部臨床心理学科教授。 臨床心理士。 山王教育研究所スタッフ東京都豊島区南池袋で「あずま通り心理臨床オフィス」を開業
翻訳に、「離婚後の共同子育て」(コスモス・ライブラリー)
「離婚毒」(誠信書房)
「離婚後の共同養育と面会交流 実践ガイド」(北大路書房)など
当日の配布資料はこちら
先生の講演も熱がこもっていました 真剣に聞き入る参加者の方々
テーマ選定にあたって
今回なぜ、一見すると特殊と思われる乳幼児期の「宿泊」面会交流に焦点を絞ったかを、まず説明します。海外の多くの国では、日常的な(頻繁かつ定期的な)面会交流が子どもの最善の利益に適うというのは常識で、何人たりとも(もちろん裁判所も)それを妨害することはできません(日本の裁判所と異なり、海外の裁判所は面会を禁止/制限するところではなく、日常的な親子交流を実現/保証するところです)。
具体的な日数をあげるとすると年間100日は最低のラインで、当然宿泊も含まれます。100日なんてとんでもないと思う人がいるかもしれませんが、隔週2泊3日に、春休み/夏休み/冬休みそれぞれ1週間一緒に過ごせば、それで到達できてしまう日数です。
別居親の良いところも悪いところもすべて含め、普段の親として接することが重要だからこそ、そうした運用が当たり前のこととしてなされています。海外での「相当なる」面会交流というのは、上記のようなレベルを言うのであって、日本の相当なる面会とされている、月1回2時間などというものとは全く異質のものです。
海外でも過去には、面会交流の是非が議論になったいくつかの例があります。いずれも、既に向かうべき方向は定まっています。順に説明してきます。
(1)DVの事例
子どもへの直接的な虐待があったり、薬物中毒、アルコール中毒など、かなり特殊な場合に限り、面会が制限されたり、禁止されりすることがあります。配偶者へのDVがあったからといって即、面会できなくなることはありません。監視付きの面会から始め、徐々に(監視なしの)自然な交流ができるように公的にサポートされます。
これは、決して親子の関係を切ってはならないという強い信念によるもので、公的費用もかけ第3者を介在させます。一方で、ただ夫婦間の葛藤が高いとか会わせたくないとか、そんな未熟な理由によるものには、公的費用はかけません。親の身勝手な理由を通さない、また裁判所が安易に面会を制限しないよう、法律でしばります。
(2)片親疎外の事例
同居親が別居親を疎外し、結果として子どもが別居親との面会を渋ったり、忌避したりするケースです。海外では、別居前の親子関係を維持するというのが原則です。ですので、別居後の子どもの変化を面会制限の理由にすることはありません。このあたりが、別居後の子どもの意見を聞いて判断している日本の家裁との明らかな違いです。
片親疎外は起きてしまってからでは、元に戻すのが非常に困難ですので、未然に防ぐごとが必須です。ソリューションは、初動を大事にすることになります。「子どもに会えない」と別居親が裁判所に駆け込めば、同居親にすぐに子どもを連れてくるよう裁判所は命じます。親子の断絶期間を一時たりとも作らないことに全力を注ぎます。だらだらと調停をし、期間をおいて調査官調査をする日本の家裁とは明らかに異なります。
裁判所が命じても子どもと別居親を交流させない親には、監護権はわたりません(フレンドリーペアレントルール)。さらにその手前で片親疎外を未然に防ぐために、もう一方の親の同意なしの子どもの連れ去り自体を法律で禁止します(連れ去りの禁止)。子どもの愛着形成を阻害する「片親疎外」を根本から絶つ、ありとあらゆる取り組みをしているのです。
(3)乳幼児の事例
子どもが小さいければ小さいほど、頻繁な親子交流が重要なことも、科学的に認められています。ですから、「子どもの年齢別に面会交流のガイドライン」があり、子どもが小さいほど頻繁な面会を促しています。「養育プラン」もガイドラインを参考に両親が取り決めていくのですが、両親でまとまらなければ、ガイドライン基準で決められます。
ただし、乳幼児の「宿泊」面会交流についてはその是非の議論が続いており、これまでガイドラインがなかったため、裁判官の判断に委ねられてきました。今回の講演会では、その議論の最新情報にフォーカスして頂くことにしました。
乳幼児の宿泊面会は必要か?
「離婚毒」の著者でもあり離婚・片親疎外等の権威であるリチャード・ウォーシャック博士が昨年、乳幼児の面会交流に関して、主要な先行研究(135論文)をメタ分析的な文献研究をした結果、乳幼児の宿泊面会交流に反対する見解は支持されませんでした。
むしろ、父母双方との愛着形成の点で、宿泊面会が非常に重要という意見が大勢を占めました。この論文は100人以上の研究者などが読み、コメントを寄せ、それを反映、一部改定されました。彼らは、最終的にこの論文の結論に賛同を表明し、氏名を掲載しています。
上記の文献(講演のネタ)は、AFCC(Association of Family and Conciliation Courts : 家庭裁判所/調停裁判所協会)のタスクフォースがまとめたものです。AFCCはは学際的な学会で、裁判官、弁護士、心理士、福祉士、メディエイター(調停の専門家)、カストディ・エヴァリュエイター(監護権評価の専門家)、ペアレンティング・コーディネイター(養育計画作成の専門家)、ペアレント・エデュケイター(親教 育の専門家)など、家族の問題に関わる多職種の専門家により構成されています。
実務ガイドラインを積極的に提案しており、裁判所や行政に対して非常に大きな影響力を持っています。
乳幼児の宿泊面会交流のポイント
最善の目標は「三人組(三角形)=父親、母親、子どもの安全基地です。すなわち、父母双方との愛着形成を促進する共同養育環境であり、父母双方がもう片方の親の重要性を認識している関係性を指します。
子どもは親同士がそんなに仲良くないなあと思っていても、両方の親が、どこかで子と片方の親の関係を応援しているんだと安心感を得られることが大切であり、そのような環境の中で面会交流を続けることで、子どもは安全基地をイメージすることが可能となります。
これは乳幼児に限らず、面会交流全般に言えることです。
乳幼児の宿泊面会交流に関する懸念事項と円滑に実施するための決定的な要因
乳幼児においても宿泊面会が愛着形成のために非常に重要であることは揺るぎないものとはなりましたが、全く懸念事項がないわけではありません。
上記のスライドのように、
①子どもが父母の衝突にさらされている
②子どもと別居親の関係性が築けていない
③父母が養育方法について合意していない
の3点が懸念事項になります。懸念があるからといって、安易に宿泊面会を禁止してしまえば、双方の親との愛着形成は育まれなくなってしまうため、AFCCのタスクフォースは、下記の8項目を検討項目とし、ガイドラインとして定めました。
乳幼児の宿泊面会交流における検討事項8項目
①安全 ②両親に対する子どもの信頼感と安心感
③両親のメンタルヘルス ④健康と発達
⑤行動面の適応 ⑥両親の協力関係
⑦宿泊の分担が可能か ⑧家族の要因
この内いくつかの点にコメントすると、①の安全に関して、親同士が片方に対して暴言を吐かない等、お互いに安全な状態を指します。
②宿泊面会は重要だけれどもその方法として、子どもが18ヶ月以下の場合に限っては、居所を定めて、もう一方が泊りにくることを薦めています。
④について、AFCCは子どもの病気は言い訳にならないとの見解を示しています。たとえ病気(風邪、発熱)でも、もう片方の親が手当てをすればよく、つまり片方の親に子どもの健康をケア出来るアレンジメント体制が整っていれば問題無いとの考え方です。この点でも現在の日本とは大きく違っています。
⑥の両親の協力関係は必須であり、両親感の憎悪の感情が優先されてはなりません。少なくとも両親間にビジネスライクな関係が求められます。お互いの言葉遣いはもとより、子どものニーズを自分の願望よりも優先し、決められた事項を一貫して守る一方、臨機応変な対応も必要とされます。
おわりに
子どもの成長は待ってくれないこそ、私たちは制約条件の中で、「わずかな時間であっても、いい時間、いい思い出をたくさん作ること」に全力を尽くさなければいけません。
しかし、たった月一回の面会交流機会を得るために、膨大な時間/エネルギー/お金をかけなければならない日本は一体どうなっているのでしょうか。
新たな法整備がされない限り、子どもの最善の利益からかけ離れた裁判所の運用が変わらないことは、民法766条改正後の実態をみれば明らかです。
社会は誰かが動かなければ変わらない。
それが出来るは私たちだという思いを強くしました。
今まさに別居・離婚により親子交流が途絶えてしまっている人、そして今後そうなってしまう人、すべての人を救うために。