「面会交流の有無と自己肯定感/親和不全の関連について」 大正大学カウンセリング研究所紀要 第34号 5-17
欧米では既に30年以上前から、離婚後の子どもにとって、両親双方との「日常的な情緒交流」が健全な人格形成に欠かせないという研究がされており、こうした実証的研究に基づき、定期的かつ頻繁な面会交流を保障する法整備がされてきている。
日本では、面会交流や監護者指定に関し、裁判所の調停に持ち込まれたとしても、実証的な根拠(エビデンス)が少ない故に、「子どもに会わせるべきだ、会わせられない」といった当事者双方の水掛け論が果てしなく続くのみで、建設的な取り決めに向かわないことが多い。欧米では、数々の実証的研究により、別居後でも双方の両親と頻繁に会うことが当然とされており、争いはあるものの、その内容はその具体的プランに関してである。
一方で、日本では離婚後の単独親権制度に加えて、面会交流が明文化されていないことにより、一旦親子が離れてしまえば生き別れになってしまう恐れがあり、欧米よりも離婚紛争が熾烈になりやすい。そうした背景をもとに、本研究は取り組まれている。本研究は、欧米での研究が、日本でも通用するものかどうか、それを検証したものになっている。結論は以下である。
別居親と面会交流をしていない子どもは、「自己肯定感」が低くなり、「親和不全」が高くなることが明らかになった。一方、たとえ親子の離婚を経験した子どもであっても、別居親と面会交流を続けている場合、両親のそろっている家族と比較して「自己肯定感」および「親和不全」の得点に差が出ないことも明らかになった。この結果は、離婚後ないし別居後の子育てにおける面会交流の重要性を明白に示している。
補足をしておくと、上記結論の「明らかになった」は、統計上、間違いが起こりえないレベルの有意差である。本論文の著者が、「家族観や結婚観、子育てに関する文化の違いを超えて、欧米諸国の先行結果と全く同じ結果になったことは非常に重要な意味を持っている」と述べている。子どもの利益は何か、日本でも他国と同様な結果がでた以上、「日常的な情緒交流」を実現する制度化を急がなければならないという点で、私も全く同感である。
(編集部コメント)
LIBRA2011年5月号 63期リレーエッセイ 『面会交流事件から見えてきたこと』
私達がこの新人弁護士のエッセイをここで紹介したいのは、真の『子どもの最善の利益』が何か、それを念頭において行動していることが伝わってくるからである。こんなことは当たり前ではないかとお思いになる方もいらっしゃるかもしれないが、日本には、クライアントの利益と称して、子どもと非監護親との交流を引き裂くために心血を注ぐ、節操のない弁護士が多数存在する。我々は、このような弁護士によっても、親子の絆を断たれている実態がある。
共同養育が当たり前になっているアメリカにおいても、以前は、クライアントの利益を優先して、引き離し弁護が横行した時代があったと聞く。しかし、そのような弁護が、子どものために相応しくないと反省し、弁護士会全体として、少なくとも家事事件においては、たとえそれがクライアントの利益であったとしても、そのような弁護活動をやめたのだという。
日本の弁護士は未だに、クライアントの利益ともっともらしいことを言いながら、自身の利益を最大化することに走っている有様である。一般的には知識人と思われている人たちが、本質を考えることなく金儲けに走る姿は、憤りを通り越して、なんと心の貧しい国だろうとがっかりする。
自身も当事者となり、この問題に多く携わるようになった。裁判官はいうに及ばす、弁護士も含めた司法会全貌が明らかになるについて、多くの当事者がそうであるように、司法を全く信用できなくなっている。そんな状況にあるからこそ、この新人弁護士のエッセイが一際輝き、私たちの心に安らぎを与えてくれた。
(編集部コメント)
「片親疎外」に関する最新情報 -AFCC(Association of Family and Conciliation Courts)第47回大会(2010/6/2-5)参加報告 大正大学研究紀要 96、169-176.
(画像をクリックするとpdfファイルで見ることができます)
本論文で、片親疎外に対する世界の「常識」を知ることができる。論文を読めば、「片親疎外症状に陥ってしまっている子どもを精神疾患とするかどうかということに関して、その是非については意見が割れていること。しかし、片親疎外を精神疾患として捉えることに反対の立場であっても、片親疎外の問題を否定する専門家は一人もいないこと」これが、片親疎外に関する世界の潮流であることがわかるだろう。
そして、PAS(Parental Alienation Syndrome)概念の有用性有無はひとまず脇においておくとしても、①実証的研究の蓄積、②診断基準の精緻化、③査定方法の確立、④親子再統合の方法が、片親疎外に対する課題であることでは、専門家の意見は一致している。つまり、片親疎外は、子どもに深刻な悪影響を与えることが認められており、離婚後の片親疎外から子どもたちをいかに守るか、それが非常に大切だと捉えられている。
翻って日本の家庭裁判所の対応はどうか。片親疎外の存在を認めないばかりか、片親疎外に加担しているような有り様である。「専門家」とされている調査官の中には、「過去のことには関与しない。今の子どもの様子でしか判断しない」と言い切るような人さえ存在するのである。官僚組織のなかで、効率的な事件の処理しか考えないことが半ば当たり前になってしまっている家庭裁判所の実情は、悲しい限りである。
査定方法が確立したとまではいえなくとも、片親疎外を見分ける方法は実はそれほど難しくないことや、深刻な片親疎外症状に陥ってしまっている状況からの親子再統合の成功事例も紹介されている。片親疎外問題は、事後処置は負担も大きく限界もある一方で、実は未然に防ぐことが簡単なことを示唆している。親子が引き離されてしまったら、「まず、すぐに親子を会わせる。そして間隔をあけずに会い続ける」。たったこれだけで、片親疎外問題は軽減するのである。
本論文に登場する専門家は、離婚後の共同養育が当たり前になっている国の方々である。それでも片親疎外をし続ける監護者によって、深刻な状況に陥ってしまっている子ども達をどう救うか、非常に高度な議論を展開している。片親引き離しを容認していている日本のような状況は論外であること、つまり、法整備と裁判所の運用で救える部分は救うということは最低条件と考えられていることを、最後に付け加えておきたい。
(編集部コメント)
面会交流におけるフラストレーションと心理的健康 ―離婚をめぐる別居親を対象にして―
本論文は、これまで日本でまったく注目されることのなかった、面会交流と別居親の心理的健康と いうテーマに取り組んだ非常に意義の高い実証的研究である。
調査結果を読むと、面会交流と別居親の心理的健康について本当に深く考えさせられる。
子どもと 別居しても年月と共に心理的健康が回復することや、相談できる相手がいること/離婚の捉え方が肯定的であることの重要性、面会交流の有無では心理的健康に 差が出ないこと(つまり面会交流を実施する際の高ストレスが想定されること)、心理的健康に経済状況が大きな影響を与えていること等、面会交流の支援のあ り方を考える上で貴重な知見が示されている。
(編集部コメント)
『両親の離婚と子どもの最善の利益』
日弁連の機関誌「自由と正義」12月号に発表された論文です。
離婚・別居後の親子の親子交流の問題点について、その実態を海外とも比較しながら、また子どもの心理面への影響へも踏み込み、鋭い指摘と改善案が論じられています。
私達当事者が考えていることが、論理的かつわかりやすく、実に見事に表現されています。是非、熟読してみてください。
(編集部コメント)
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