「母からの手紙」 鈴木
お母さんは、家族のためにお料理を作るのが好きでした。ダディや菜子や理子が「おいしい」って言いながら食べる姿を見ると、とてもしあわせな気持ちになりました。
菜子と理子の「おいしい」で、お母さんはお腹がいっぱいになったものでした。
幼稚園のお弁当も、食の細い菜子には、何とかして食べてもらおうと顔のおにぎりやハート型のハムサンドなど、いろいろ工夫しました。一方、理子は毎回本当にきれいに平らげてきてくれて、「りーこ、ぜーんぶたべた」と誇らしげに見せる空っぽのお弁当箱までもが愛おしく思えたものでした。
お母さんには、胸を張れる得意料理は特にないけれど、それでも二人が大きくなったら一緒にお料理を作って、味付けの仕方、出汁のとり方、栄養のこと、献立のこと、盛付け方、食材の見分け方、下ごしらえ、ご飯の炊き方、器の使い方、などを教えてあげたかったと思います。
お勉強やスポーツができることも素敵なことで、大いにがんばって欲しいと思うけれど、女性として生まれてきたのだから、家族のためにおいしいお料理が作れる女性になって欲しいと思います。「男性と女性は同等」と主張するのもいいけれど、女性には男性ほどの力はないのだし、家庭の中では、古めかしいとアメリカで育ったあなたたちは笑うかもしれないけれど、女性は男性に守られ、家族のためにお料理を作ったり家の中をきれいにしたりすることで、家庭は円満にいき、バランスがとれるものだと思います。
お母さんは、陶芸を習っていた時期がありました。その頃の夢は、郊外にお家を買ったら、電気の窯を買って工房を作り、菜子と理子が結婚する時、お皿もお茶碗も小鉢もカップもみんなお母さんが作ったものを持たせるということでした。叶わなくて本当にごめんね…
お母さんは、愛媛県というところで生まれて育ち、高校は岡山県でした。愛媛県には、砥部焼、岡山県には備前焼という焼物があります。お母さんは、そのどちらも大好きなので、二人が結婚する時にはお母さんに食器を買わせてね。日本のおばあちゃんがお母さんに教えてくれたの、「夫婦茶碗は砥部焼がいい」って。「丈夫で、夫婦喧嘩の時、投げても割れないのよ」って。今どき、お茶碗を投げる夫婦喧嘩なんて見たことないけれどね…おばあちゃんは愛嬌のある人で、二人もおばあちゃんの言動によく笑っていたよね。
砥部焼も備前焼も、どんなお料理もおいしく見える、魔法の器だとお母さんは思います。使ってみれば分かるよ。結婚する時、楽しみにしていてね。
どんなに小さなことでも、他人にはつまらないことでも、「母から娘へ伝えること」というのは尊いことだとお母さんは思います。
お母さんは、毎日毎日これもあれも二人に伝えたいと思いながら過ごしています。洗濯物を干していても、「洗濯物の干し方、たたみ方、教えたいなぁ」って思うし、お風呂に入っていても、「もう一人でお風呂に入ってるだろうな…体や髪の毛の洗い方もちゃんと教えたいなぁ」って思って過ごしているの。
今すぐには伝えられなくても、いくつになってからでもいい、必ず、お母さんから菜子と理子へ、女性としての一通りのこと、お母さんなりの方法を教えてあげられる日が来ると信じています。母と娘の時間、ロスした分もきっときっと取り戻そうね。そのためにお母さんは、元気でいるね。お肌のお手入れもして少しでも若くいられるようにがんばるね。