2013年01月26日 朝日新聞 『(いま子どもたちは)親が離婚した…:3 「お父さん、一緒に帰ろう」』
(いま子どもたちは)親が離婚した…:3 「お父さん、一緒に帰ろう」
No.452
1月20日、東京都内の児童施設は親子連れでにぎわっていた。「待て待てー」。会社員のケンジさん(44)は、遊具の間をうれしそうに走り回る娘のカヤノちゃん(4)を汗だくになって追いかけた。親子のありふれた触れ合いに見えるが、2人が会ったのは4年ぶりだった。
カヤノちゃんが生まれてすぐ、ケンジさんと妻のミユキさん(26)は別居した。ミユキさんがカヤノちゃんを育てながら協議を続け、昨年7月、離婚が成立した。離婚の条件として、養育費の支払いとともに、カヤノちゃんとの定期的な面会交流が約束された。
もともと面会交流を希望していたのは、自身も離婚家庭で育ったミユキさんだった。生まれる前に別れた父のことを何も聞けないまま、小学3年のときに母が病気で亡くなった。「私には何かあったときに帰る場所がない。自分の親の情報を知っておくのはとても大切なこと」
カヤノちゃんには時々、父がいることを聞かせてきた。娘は「背が高くて、かっこいい人がいいな」と無邪気に話していた。でも、別れた夫に会うのは気が進まない。娘をケンジさんと2人きりで会わせることにも抵抗があった。「連れて行かれたらどうしよう。私の悪口を吹き込まれたらどうしよう」
弁護士に紹介されたNPOびじっと(横浜市)に面会交流の支援を依頼。理事長の古市理奈さん(41)に同席してもらうことにした。古市さんは「子どもを一方だけの所有物にしてはいけない。両親から愛されている実感は、子どもの成長に欠かせない」と話し、ケンジさんとミユキさんにエールを送る。
この日の面会は、古市さんの提案で3時間。遊具で遊び、絵を描いて、父と娘の時間はあっという間に終わった。
ミユキさんが迎えに来た。抱っこしていたケンジさんがカヤノちゃんを下ろす。カヤノちゃんはミユキさんに手を引かれながら、もう片方の手でケンジさんの手を握った。「楽しかった。お父さんが作ったおにぎりおいしかった。一緒に帰ろう。今度はもっといっぱい長ーく遊ぼう」
(古田真梨子)