2017年03月20日 livedoor News 『子どもに会えない父親たち 認められない面会交流の裏側』
子どもに会えない父親たち 身に覚えのないDV訴えられ面会困難に
調停で離婚した夫婦の子どもの約9割は、母親が親権者になる。子どもと断絶させられた父親からの面会交流調停への申請数が増えている。
4年前、シンジさん(48)が仕事から家に帰ると、真っ暗な部屋に一枚の置き手紙があった。
「あなたは私のことを対等に見てくれませんでしたね。子どもは連れていきます」
生後7カ月の娘の姿はなく、その日から娘と会えない“断絶”の日々が始まった。
14歳年下の妻とは、小笠原諸島の民宿で出会った。2人とも海が好きで、2009年に結婚。シンジさんは大手メーカーのエンジニア、妻はパティシエとして働き、夜は2人で外食するような仲のいい夫婦だった。12年6月に長女が生まれた。
「妻は人付き合いが苦手で、子ども好きというタイプではありませんでした。妊娠してからは情緒が不安定気味で里帰り出産をしましたが、それはよくあることです。東京に戻ってからは私も4カ月の育児休暇を取り、一緒に育児をしていました」
●完全なでっち上げ
だが、しばらくたつと“事件”が勃発する。孫の様子を見に自宅に来た義母が「孫は連れて帰る!」と言ってシンジさんにつかみかかってきたという。妻も娘を強引に連れ出そうとしたので、義母を振り払って、娘を取り返した。結局、児童相談所が仲介に入ったが、児相に義母は「(シンジさんに)暴力を振るわれた」と主張していたという。
「断じて暴力など振るっていません。目の前で娘を連れ去られそうになったので、それを振りほどいただけです」
その後、一度は妻と娘も自宅に戻り、家族再生の道を探った。だが、妻が生命保険の外交員に勧誘され、その場で契約したことを発端に、また夫婦に摩擦が生じる。シンジさんが「なぜすぐ決めるのか」と問うと、妻は「あなたは私のやりたいことを一切認めない」と口論になった。
「その時も、怒鳴ったりはしていません。実は、妻は過去にも帰省中に同級生からマルチ商法に誘われ、物品を購入したことがある。周囲に影響されやすいところは諭しました」
こうしたことに不満を募らせたのか。約2カ月後、妻は娘を連れて家を出ていった。
翌日、妻の弁護士から内容証明郵便が届いた。離婚事由は「精神的DV」と「経済的DV」。妻は事前に自治体の窓口でDV相談をし、弁護士も手配していた。出ていく日を決めて、一時的にシェルターに避難することで、DVを主張する「計画」が出来上がっていた、とシンジさんは主張する。
「完全なでっち上げです。住居費、生活費もほぼ私の負担で経済的DVもありえません」
意に反して離婚調停が進むなか、シンジさんは面会交流を申し立てていたが、面会できたのは2年間で2回だけ。それも妻の地元で第三者機関の担当者を交えて60分だけという条件だった。最初は娘が1歳半のとき。殺風景な広い部屋でおもちゃで遊ぶ娘を遠くから見守るだけ。その「非日常」の雰囲気に娘は泣きだしてしまい、結局、30分で切り上げられた。9カ月後の面会も同様に泣いてしまい、30分で終了。父親だとわかってもらうこともできなかった。
「もしかしたら、妻は私が親のように諭すのが気に入らなかったのかもしれない。でも、それだけで7カ月の娘と引き離されて、2年間で会えたのはたった1時間というのはひどい」
●面会交流申請が急増
厚生労働省の「全国母子世帯等調査」(11年度)によると、別居親と子どもの面会割合は母子世帯で27.7%、父子世帯で37.4%。別居親の6~7割は子どもと会えていない。一方で、面会交流調停への申請数は増え続けており、15年は1万2264件(司法統計)。00年と比べて5倍以上にもなっている。
民法には面会交流の明確な規定はなかったが、12年施行の改正法で「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」と明記された。こうした流れを受け、16年末、超党派の国会議員が所属する「親子断絶防止議員連盟」は、別居親との面会を促す法案をまとめた。
ノンフィクション作家の西牟田靖さんは、今年1月、離婚前後に子どもと引き離された父親の葛藤をつづった『わが子に会えない』を出版した。
「子どもに会えない父親=妻や子に暴力を振るう男性というレッテルを貼られがちです。しかし、私が話を聞いた父親たちは、子ども思いで暴力を振るうようにも見えず、経済的に安定している方が大半でした。離婚事由として、妻から身に覚えのないDVを訴えられるケースが多く、いきなり子どもと断絶させられたうえに、どうやって“無実”を証明すればいいかもわからない。混乱の中で司法の判断だけが進み、面会交流も認められにくくなる。そうなれば円満解決はもはや困難です」
ナオトさん(37)は、1年半前に妻に子を連れて出ていかれた。当時、長男が2歳、長女は3カ月だった。子育ては自分でやりたいという妻の意思を尊重し、代わりに掃除、洗濯、皿洗い、ごみ捨てなど家事全般を請け負う、協力し合う夫婦だった。それなのに、手紙一枚を残し、妻と子どもは突然姿を消した。
●離婚の事由がない
「『もう夫婦関係は続けていけない』とだけ書かれていました。すぐに妻に理由を聞きましたが、とにかく『離婚したい』の一点張り。今でも明確な離婚の事由は示されていません」
思い当たる節があるとすれば、義母との関係。過干渉なくらいに家に来る義母とは折り合いが悪く、ある日、ナオトさんの実親をあしざまに言ったことに怒り、怒鳴ったことがあった。
だが、妻にそれが理由かと問うと「違う」という返答。理由もわからないまま、調停が申し立てられた。家庭裁判所からは円満調停が言い渡され、「面会は月に1回2時間」「監護権は妻とすること」などが決まった。
「離婚の事由もないのに、子を連れて出ていかれて月に1回しか会えなくなるなんて、司法の判断は明らかにおかしい」
ナオトさんは、親子断絶防止法案の成立を願っているという。
ただ、同法案には不備が多いとの指摘もある。弁護士の打越さく良さんが言う。
「第8条のように『別居前に子どもの監護権や面会交流の取り決めをせよ』というのは危険な場合もあり一律には言えません。子どもの心身の安全確保のために別居しなければならないときに、事前の話し合いなど無理です。行政の窓口に行って
『事前の取り決めがないなら援助できません』となったら結局避難ができず、子どもにも酷です」
子連れ別居や離婚の背景には、深刻なDVや虐待がある場合も多く、「子の利益」に照らし当面は別居親との面会交流を認めるべきでないケースもある。
「どのような場合が違法な連れ去りで、監護の継続性や虐待の存否など個別の事情を含めて子の利益を判断できるのは、やはり家庭裁判所。実績のある家庭裁判所の環境改善を図ることが先決です。そもそも、『児童の権利条約』では、子どもの権利の実現のため、国に適切な措置をとる義務を課している。この法案は当事者間に力の非対称性がありうることを無視して、父母に責任を負わせていることが問題です」(打越さん)
夫婦の別離は、夫、妻の立場それぞれに“真理”がある。ただ、同意なしに子どもを連れていかれた親の苦悩も深い。「救済策」が検討される時期に来ている。(文中カタカナ名は仮名)
(編集部・作田裕史)
※AERA 2017年3月20日号