2017年02月28日 日本経済新聞 『家族と法(上) 離婚しても子に会いたい 交流求め、調停・審判急増 』
家族と法(上) 離婚しても子に会いたい 交流求め、調停・審判急増
離婚や遺産相続など全国の家庭裁判所が担当する「家事事件」が、年間100万件を超えた。離婚後の子供との面会をどうするか。介護負担を相続に反映させるべきか。紛争のかたちは複雑になっている。解決を願う当事者の思いから、司法が抱える課題を探る。
「お父さんと会うのはイヤ。毎月100万円くれるなら会ってもいい」。北陸地方に住む50代の男性は昨年10月、送られてきた書面に印刷された「娘の言葉」に絶句した。差出人は別居中の妻の弁護士。妻は2年前、長女(8)を連れて家を出た。以来、娘の姿は一度も見ていない。
「娘の本心は?」
2015年春、離婚を前提に長女との面会を求める調停を起こした。しかし家庭裁判所は「長女が拒んでいる。面会は認められない」と諦めるよう促した。「娘と引き離される前日まで同じ布団で並んで寝ていた。『会いたくない』が本心のはずがない」。調停は合意に至らず、今月からはより訴訟に近い形の「審判」が始まった。
離婚前後に父母が別居したとき、どちらが子供といっしょに暮らし、離れて暮らす親との面会をどうするか。法的な争いが急増している。15年に面会をめぐる調停や審判は全国の家裁で1万4241件。10年間で約2.5倍に増えた。
離婚で家族がばらばらになって「縁が切れる」という感覚が薄まり、離婚しても父母ともに子供と会うべきだという意識の変化が背景にある、と司法関係者はみる。
昨秋、東京家裁が1つの決定を出した。別居中の母親に月1回娘を会わせる約束を守らない50代の父親に対し、「1回の面会拒否で100万円」の支払いを命じる決定をした。高裁で30万円に減額されたが、子供との交流を重んじた新たな判断として注目された。
離婚紛争の専門家によると、欧米では離れた親に宿泊を伴う長期間の面会を認めるケースが多い。しかし日本の裁判所では、特に父母間の対立が激しい場合、親権を持ち同居する親との関係維持が優先されやすい。同居する側が「会わせたくない」と考えれば、一方の希望は通りにくい。
棚村政行・早稲田大教授(家族法)は「別居前の子育てへの関わり方や親子関係を丁寧に考慮したうえで、問題がなければ少しずつ面会の実績を積み上げられるような判断が裁判所に求められている」と話す。
子の利益優先を
人口動態調査によると、両親が離婚した子供は年間22万人。今の出生数で考えると、5人に1人が経験している計算だ。面会場所を提供するなどして離れて暮らす親子を支援する家庭問題情報センター(FPIC)の山口美智子理事は「父母にはそれぞれ葛藤があるが、子供の思いをくみ取る姿勢を親も司法も忘れないでほしい」と訴える。
もともと面会交流の規定は民法には明確にはなかったが、12年施行の改正法に「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」と明記された。超党派の議員連盟は昨年末、離婚後も親子関係が続くよう促す法案をまとめた。
ただ離婚の背景にドメスティックバイオレンス(DV)がある場合も考えられ、反対意見も強い。法整備で面会が広まるかどうかは不透明だ。
会いたい親、会わせたくない親。どちらも裁判所に解決を求める。親の離婚に直面した子供のため、どんな解決策を示すのか。「全員が納得するような大岡裁きを期待されても困る」(ベテラン家事裁判官)とため息が漏れるなか、きょうも「子をめぐる争い」が裁判所に持ち込まれる。