2017年01月26日 NHK 『親権訴訟 面会交流重視の1審を覆す判決 東京高裁』
親権訴訟 面会交流重視の1審を覆す判決 東京高裁
離婚する夫婦が子どもの親権などを争った裁判で2審の東京高等裁判所は、「子どもが育ってきた状況や現状などを総合的に考慮して決めるべきだ」として、子どもと同居している母親に親権があるとする判決を言い渡しました。1審は親子の面会の機会を多く設けることを提案した父親に親権を認めましたが、判断が覆されました。
この裁判は、7年前から別居している夫婦が、9歳の長女の親権などをめぐって争ったもので、子どもと離れて暮らす父親側は、「自分が親権を得たら母親と長女の面会交流の機会を年間100日は設ける」と提案しました。
1審の千葉家庭裁判所松戸支部は、この提案を評価して父親を親権者と定め、母親に対して、同居する長女を引き渡すよう命じる判決を言い渡し、母親側が控訴していました。
26日の2審の判決で、東京高等裁判所の菊池洋一裁判長は「子どもが育ってきた状況や現状などを総合的に考慮して親権を決めるべきで、面会交流は考慮すべき事情の1つだが、それだけで健全な成育や子どもの利益が確保されるわけではない」という判断を示しました。
そのうえで、「長女は母親のもとで安定した生活をしている。面会交流は円満な親子関係の維持のための有力な手段だが、100日の面会は子どもに負担になるおそれなどがある」として、1審判決を取り消し、母親を親権者と定めました。
1審判決は、これまでの裁判で考慮すべき要素の1つとされてきた面会交流の機会を重要な判断基準とする異例の判決として注目されましたが、2審で覆されました。
母親側「裁判所の的確な判断に感謝」
判決について母親は、弁護士を通じて「的確に判断してもらった裁判所に感謝します。娘のためにも夫婦間の争いは過去のこととして、新しい人生を歩みたいと思っています。夫にも穏やかな気持ちで娘に再会してもらいたいと願っています」というコメントを出しました。
また母親の弁護士は「親の主義主張ではなく子どもの利益を考えるという裁判所の基本的な考え方を示した判決だ。第三者の力を借りながら徐々に父親との面会を進めていき、いい関係を築いてほしい」と話しています。
父親側「早く娘を返して」
判決について父親は、「娘に対して『申し訳ない』のひと言です。最高裁判所に上告しますが、審理が長引けば、当時2歳だった娘が中学生になるかもしれない。最高裁には、迅速に審理してほしい。一刻も早く娘を私のもとに返してほしい」と述べました。
また、父親の弁護士は「東京高等裁判所は、今までの裁判と何ら変わらない判断をした。子どもを連れ去って監護している親のもとで育つのがいいという判断をしたということだ。裁判所は、モラルを放棄したと言われてもしかたがない」と話しています。
専門家「社会全体での支援が必要」
元裁判官で山梨学院大学法科大学院の秋武憲一教授は判決について、「子どもが育ってきた状況や生活環境、子ども本人の意思などを重視して親権を判断していて、これまでの裁判所の判断方法を踏襲したオーソドックスな判断だ」と話しています。
今回の裁判では子どもとの面会交流が争点の1つになりましたが、秋武教授は、「子どもが親の愛を感じて健康に成長するために面会は欠かせないもので、親の権利ではなく、子どもの権利としてとらえるべきだ」として、子どもの立場から面会交流の在り方を考えるべきだとしています。
そのうえで、「離婚が多くなり争いが増えると、全ての問題を親だけで解決するのは難しい。専門家が入った支援団体の整備など社会全体での支援が必要だ」と指摘しています。
裁判に至る経緯と双方の主張
裁判の当事者の夫婦は、7年前に別居し、長女の親権をめぐって争っています。
母親は長女を連れて家を出て、子どもを養育する権利「監護権」を求める審判で勝訴し、今も長女と暮らしていて、離婚後の親権も自分にあるとして今回の裁判を起こしました。
一方、父親は長女との面会を求め、最初の数か月間は会うことができましたが、それ以降は面会できず、裁判の中で親権を求めて争ってきました。
裁判で母親側は「別居する前に長女の世話をしていたのはほぼ自分1人で、家に置き去りにするわけにはいかなかった。長女を住み慣れた環境から引き離すのは利益に反する」と主張していました。
これに対して父親側は「子どものためには、両方の親と面会できるようにすることが大切で、長女を違法に連れ去って面会交流に応じない母親ではなく、自分が親権を持つべきだ」と主張していました。
「面会交流」調整は難航
少子化や男性の育児参加の広がりを背景に、離婚や別居をしても別れて暮らす子どもと「面会交流」を続けることを求めて裁判所に調停を起こす親は年々増えています。
離婚や別居などで別れて暮らす子どもと定期的に会う面会交流について、全国の家庭裁判所に申し立てられた調停は、おととし1万2000件余りで、10年前のおよそ2.4倍に上っています。
しかし、調停が成立した割合は58%にとどまっていて、夫婦間の感情のもつれから調整が難しいケースも多いことがうかがえます。
こうした中、面会交流の支援を行っている公益社団法人「FPIC」には、具体的なアドバイスや面会の付き添いなどを求める相談が相次いでいて、東京の相談室だけでも年間500件ほどの家族を支援しているということです。
FPICの山口美智子さんは「面会交流に対する意識が高まる中で、とりあえず合意をしたが、片方は約束を強要し、片方はいかに逃げようかと考え、結局、子どもを巻き込んだトラブルになるケースもある。長く断絶したあとの交流はとても難しいので、サポートを受けながら環境の変化に対応していくことが必要だ」と話しています。
「面会交流」の新たな法律に賛否両論
「面会交流」をめぐっては、両親の離婚後も子どもが別れて暮らす親と関わりを続けるために必要な支援を充実させようと、超党派の国会議員が新たな法律を作る準備を進めていますが、DV=ドメスティックバイオレンスや虐待などの懸念から慎重な対応を求める声もあります。
6年前の民法改正で、離婚をする場合は子どもとの面会交流について夫婦で協議することが法律に明記されました。
これを受けて、離婚届にも面会交流の取り決めをしているかチェックする欄が設けられましたが、法務省のまとめによりますと、取り決めをしているという件数は未成年の子どもがいて離婚する夫婦の60%にとどまっているということです。
こうした中、超党派の国会議員およそ70人でつくる「親子断絶防止議員連盟」では、別れて暮らす親と子が面会を続けられるよう支援を充実させる必要があるとして、離婚をする夫婦が面会交流について書面で取り決めをすることや、国や自治体が面会交流の実施に当たり相談や支援を行うことなどを促す、新たな法律を作る準備を進めていて、今の通常国会での法案の提出を目指しています。
これに対し、DVや虐待のおそれなどから、安易に面会交流をすすめることは問題だとして法整備に反対する声もあり、離婚後の親子の関わり方をめぐり議論が高まっています。