2016年11月10日 土井法律事務所(宮城県)ブログ 『親子断絶防止法が提出された背景と問題点、補強していく方向性』
親子断絶防止法が話題になっています。
これは、離婚後に、子どもが
一緒に住んでいない方の親との交流を続けることで
子どもの健全な成長を確保していこうとする法律です。
ただ、法律といっても、
親に対して義務を定めたものではなく、
どちらかというと国や自治体の責務を明らかにした
基本法という意味あいの強い法律となっています。
http://nacwc.net/14-2016-10-10-06-05-20/8-2016-10-05-06-13-46.html
この法案が提出される背景として、
先ず、離婚時には、どちらか一方が親権者と定められ、
通常は親権者と子どもが同居するのですが、
子どもと別居する方の親が子どもと会えなくなってしまう
ということが社会問題化してきていることがあります。
司法統計を見ても、
面会交流調停を申し立てた件数が
平成12度では全国で2406件
平成27年には12264件に伸びている
というように、子どもに会えない親が激増しています。
いろいろな事情があるのですが、
高度成長期前の離婚は、
妻が夫の婚家から追放される形で行われることが多く、
子どもは「家」のものだという思想から
追い出した母親には会わせない
というむごい傾向がありました。
(今もなくなってはいません)
そのため、離婚が子どもとも
永劫の別れになるという意識が潜在的に定着していったようです。
高度成長期以降は
母親が子供を引き取ることが多く
面会交流の要求がぼつぼつ出てきたようです。
もともと江戸幕府末期や明治初期の外国人の
日本滞在記などでは
日本男性の子煩悩ぶりが多く記載されています。
(例えばモース「日本、その日その日」講談社学術文庫)
子どもを愛する気持ちは、最近のものではないようです。
子どもに会えないことによる親の心理は深刻です。
親として、人間として
人格を全否定されたような感覚を受けるようで、
それは、自分が存在することを許されないという
強烈なメッセージを受けたような感覚だそうです。
自死をする事例もかなり高いです。
これまでフェイスブックで連絡を取っていた人たちが
ある日突然書き込みがなくなるんです。
とても怖いことです。
今回の親子断絶防止法案の提出の
一つの問題の所在として、
わが子に会えない父親、母親の
魂の祈りがある。
法案提出に向けたエネルギーがあると言わざるを得ません。
しかし、最近は、法案推進側の人たちも学習を重ね、
主張の内容が変わってきています。
これには棚瀬一代先生、
青木聡先生等の
先生方のご尽力があります。
一言で言えば
「自分を子どもにあわせよ」
という主張から
「子どもを親にあわせろ」
という主張への転換です。
子どもにとって、
別居親からの愛情を感じることが
離婚後の子どもに陥りやすい
自己肯定感の低さ、自我機能の良好な発達
特にゆがんだ男女関係に陥りにくい
というような弊害を防止することに
役に立つということが
世界中の研究で明らかとなってきました。
優しい子どもさんほど
離婚に伴うマイナスの影響が出てしまうようです。
このような研究が明らかになり、裏付けられてきたのは
20世紀の末ころからで、
それほど日がたってはいません。
それまでは、子どもの利益、健全な成長
等と言う概念は離婚においてはあまりありませんでした。
最初にゴールドシュミット、アンナフロイト
等と言う学者が
面会交流については反対しないけれど
高葛藤の母親に面会交流を強いることは
葛藤を高めて、
結局子どもの利益に反するという主張がなされました。
これに対して、
離婚後の子どものマイナスの影響はあり、
それを放置するとマイナスの影響は成人後も続く
という研究がなされ、
葛藤を抱えながらも面会交流をすることによって
先ほどの負の影響が起きにくいという研究がされ、
統計学的にも実証されるようになっていきました。
最近では、離婚そのものの負の影響ではなく、
離婚後も、親どうしが憎しみ合うことが
子どもにとって悪い影響を与える
というように言われるようになっています。
これが、21世紀の20年弱の歩みなのです。
ようやく、このような研究、子どもの成長の視点が
国家政策に反映されるというのが親子断絶防止法だと
位置づけてよろしいと思っています。
それでは、問題点はどこにあるのかということですが、
同居している子どものお母さん方の一番の不安は、
離婚した元夫に会わなければならないのか
というところにあります。
暴力があるケースもないケースも
病的なまでに高葛藤となり、
元夫と同じ空気を吸いたくないとか
街で元夫と同じコートを着た男性を見ただけで
息が止まり、脈拍が異常に上がる
というまで生理的に嫌悪するということがあります。
ただ会いたくないのではなく、
生理的に受け付けなくなっているという状態だと思います。
その相手と、日時場所を決めて
受け渡しをしなくてはならない
ということであると、
どうしたってやる気が起きないというか
むしろ新たな不安に苦しむことになる
ということはよく理解できるところです。
実際、お母さん方と接していると
本当は会わせたくないけれど、
子どもをお父さんと併せることは仕方がない
という方が殆どです。
でも、できないのです。
それなのに、会わせる義務があるようなことを言われると
もう何も受け付けなくなるということはあるでしょう。
法案自体にはこのような義務を定めてはいないので
実際の問題はないのですが、
要綱とか概要には誤解を招く表現もあるかもしれません。
実際の面会交流を実現させるにあたっては、
お母さん(同居親の多くは母)が安心して
父親に子ども会わせる方法を構築してから
面会交流を実現させます。
禁止事項を決めて、
禁止が実現するための方法も決めて、
安全確実に子どもが戻される方法も決めて
誰かの協力を得て面会交流が実現します。
DVの訴えがあった事例などは
私も面会交流に立ち会うこともあります。
それだけ苦労する価値のある感動を受けることができるのも
面会交流です。
このような安心できる制度のサンプルを提示する
ということがこの法律実現の一番の近道ではないかと
考えています。
これはしかるべき専門家たちが
集団でサポートする必要があります。
まともにやれば費用は高額になります。
どうしても自治体の援助が必要だということになります。
もう一つの問題の所在は、
じつは、家族が崩れていくことに
国の関与があるのではないかという主張です。
このブログによくコメントをいただく方も
そのような主張をしています。
どこまで影響があるかということで
司法統計と内閣府の統計を調べた結果が下のグラフです。
面会審判申立件数はそのままの数字です。
同じグラフでわかるようにと、
面会交流調停の申立件数は10分の1として
配偶者暴力センターの相談件数を100分の1として
グラフ化しました。
そうしたら、面会交流調停と配偶者暴力相談センターの相談件数が
ぴったりとあうではないですか。
このグラフを作ってから、
少し、心は揺らいでいます。
平成22年頃からは、配偶者暴力相談センターだけでなく
民間のNPOなんかも相談に乗るようになったのではないか
という気もしています。
そして、これらが、親子関係の崩壊の
一因となっているのではないかと
そんな考えが否定できなくなっています。
親子関係崩壊ということも、
親子関係断絶防止法のワードの一つです。
この法案に積極的に反対している方は、
この法案ができてしまうことは
「家族や子どもをめぐる法律は、2000年代から、家族の多様性や個人を尊重し、家族内で暴力や虐待があった場合、個人を保護する方向で整備されてきた。配偶者暴力防止法や児童虐待防止法がそうだ。「父母と継続的な関係を持つことが子の最善の利益に資する」として、一方の親にだけ努力義務を課し、子の意見も聞かない法律ができれば、20年以上前に時計の針を戻すことになる。」
と述べています。
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12582308.html
これについては、反論もさせていただいています。
http://doihouritu.blog.so-net.ne.jp/2016-09-29-1
ここが、彼女らの主張や考えの根幹なようです。
「家族の多様性や個人の尊重」とは、
家族は、父親、母親、子どもという固定観念を捨てて、
父親のいない家庭を当たり前にしようということのような
そこまで過剰な主張をしていると考えることが
どうやら実態からみて合理的なようです。
これまでの20年は、例えば上のグラフのような
面会交流が激増するような事態を作るということだったようです。
暴力の有無にかかわらず
警察や行政は、母親の子どもを連れた別居を支援しているからです。
子供にとってどちらが幸せかという科学的な
調査研究の積み重ねは無視されています。
私が、彼女らの議論こそ20年前の議論に、
そうですゴールドシュミットやアンナフロイトの議論に
全く立ち返っていると言ったことはわかりやすいことだと思います。
20年たって、科学的には根拠がないとして葬られた学説が
現在親子断絶防止法の反対意見として
なぞられるように再言されています。
「多様な家族」を作る目標こそが
親子関係断絶防止法反対キャンペーンのモチベーション
のような感覚も受けています。
しかし、それは国民のコンセンサスでもなければ
国家等公的機関がやるべきことではありません。
親子断絶防止法は、
根本的には、
離婚後の家庭に対する働きかけだけではなく、
現実の家族に対する向かい風をどのように克服していくか
どのように男女が協力して
温かい家庭を作っていくかという
そして、国や自治体が押しつけがましくではなく、
支持的支援を求められたら応えられるような体制を作る
ということまで視野に入れることが肝要なのだと思います。
離婚というのは、結果です。
結果が出る前に早期に解決して
早期に家族の不安や軋轢を取り除く工夫こそが
国や自治体の政策として必要だと私は思います。