2014年05月01日 毎日新聞 『ハーグ条約:「子の連れ去り」詳しい弁護士が関東圏に偏り』
ハーグ条約:「子の連れ去り」詳しい弁護士が関東圏に偏り
◇徳島や秋田など登録ゼロの県も
国際結婚などが破綻し、一方の親が外国に子を連れ去った場合の扱いを定めた「ハーグ条約」で、返還手続きなどに携わる全国の弁護士の登録数は関東圏が6割を占める一方、登録ゼロの県もあり、地域的な偏りがあることが分かった。専門家は「紛争解決まで数カ月かかる場合もあり、きめ細かな対応が必要。地方の弁護士充実が課題だ」と指摘している。
ハーグ条約は、親が無断で子を国外に連れ出した場合、もう一方の親の返還請求に基づき、子を元の国に原則戻すことを規定する。国際結婚の増加によるトラブルの多発などを受け、主要8カ国(G8)で唯一未加盟だった日本も加盟を決め、今年4月に発効した。
発効に伴い、日本弁護士連合会(日弁連)は子の返還や面会を求める親、子を連れ帰った親への弁護士紹介制度を始めた。全国の弁護士会を通じて全国で151人を登録したが、ブロック別の内訳は関東が93人と突出する一方、近畿と九州各16人▽北海道11人▽中国・四国6人▽中部5人▽東北4人−−にとどまっている。徳島や秋田など登録ゼロの県もある。
日弁連は登録の際、家族法などの知識に加え、当事者や当局と交渉する英語力も求め、登録が伸び悩んだ。徳島弁護士会で人選を担当した滝誠司弁護士は「法実務レベルの英語を日常的に使う弁護士が少なく、登録には慎重になる」という。
同条約は強制的な返還手続きの一方、調停など話し合いによる解決を求めており、弁護士の役割は大きい。ただ、スキルアップは各弁護士任せが実情。山梨県弁護士会で登録された反田(そった)一富弁護士は「国際ビジネスに関わる弁護士は増えたが、海外の家族法に詳しい弁護士は少ない。個人的に20年以上英語を学んでおり、役に立てばと引き受けた」と話す。
国の人口動態統計によると、2012年の国際結婚は2万3657件で、離婚は1万6288件に上る。樋爪誠・立命館大教授(国際私法)は「連れ去りの背景には相手の暴力なども考えられ、当事者もぎりぎりの精神状態。子の返還後も親権を巡る交渉が必要で長期的支援が欠かせない。研修の充実など弁護士の養成を進め、事例を共有して的確な支援につなげることが大切だ」としている。【藤河匠】