2013年03月16日 愛媛新聞 『ハーグ条約加盟へ 親権制度も視野に議論尽くせ』
ハーグ条約加盟へ 親権制度も視野に議論尽くせ
国際結婚が破綻した夫婦間の子どもの扱いを定めたハーグ条約の加盟承認案と関連法案がきのう、閣議決定された。5月中にも国会承認、成立する見通し。
1983年発効の条約には米国や欧州連合(EU)の全加盟国、韓国、タイなど89カ国が加盟。主要国(G8)では日本だけ未加盟で、欧米から早期加盟を迫られていた。
日本人の国際結婚は80年代後半から急増し、2011年には年間約2万6千組を数えた。それに伴い、結婚生活の破綻や離婚も増加。一方の親による子どもの国外連れ去りが問題化するなか、国際社会の一員として共通ルールの受け入れは避けられまい。
ただ言うまでもなく子どもの利益を最優先に加盟環境を整えねばならない。同時に連れ帰りが「誘拐」ともなりかねない外国との間で、親権も絡む争い事に対応するには政府の支援も不可欠だ。
ハーグ条約は国際結婚が破綻し、片方の親が16歳未満の子どもを無断で国外に連れ出した際、元居た国に戻して解決するのを原則とする。
日本人の親が外国から連れ帰った場合、片方の外国人の親は日本の外務省に置く「中央当局」に子どもの返還を申請できる。中央当局は子どもの居所を調べ、最終的に裁判所が返還の適否を判断する。
まずは司法手続きに入る前に、中央当局の仲介者としての役割を注視したい。親や子どもの経済的、精神的負担を考慮すると、政府には当事者間の話し合い解決に向けた支援が求められる。
日本では外国人の夫の家庭内暴力(DV)から逃れ、母親が連れ帰るケースが多いとされる。DVや虐待など「子どもが心身に害悪を受ける重大な危険」があれば、裁判所が返還しなくてよいと判断する場合もある。個人では容易に対応できない暴力の立証にも、政府の支援が必要だ。
だが「重大な危険」とは何か一律には判断し難い。外国の裁判所で判断をあおぐケースなら、なおさら「日本の常識」は通用するまい。
制度が動きだすに従い、想定外の事態も出てこよう。実態調査や一定期間後の関連法見直しの検討も求めたい。
何より日本と外国との親権制度の違いに目をつむったままでは、条約の趣旨を十分に生かせるとは考えにくい。
欧米では離婚後も両親が親権を持つ共同親権が一般的で、条約の趣旨もこれに基づく。日本が片方だけの単独親権を取り続けるなら、加盟の意義さえ問われかねない。
離婚後共同親権制度を認めるよう民法改正を求める声もあるが、政府はそこまで踏み込む覚悟があるのか。民主党政権でたなざらし状態のまま廃案となった懸案だけに、国会での議論を尽くすべきだ。