2012年10月17日 朝日新聞 『別居後の子育て 誰が養育、実情見て裁定を』
離婚や別居の際、小さな子どもがいると、どちらの親が育てるのか、決めることになる。争いが家庭裁判所に持ち込まれると、実際 に子どもと暮らしている「実績」が重視されることがある。この判断基準は「継続性の原則」と呼ばれるが、問題もある。協議前に子 どもを連れ去り「実績作り」をすれば良い、ということになるからだ。
ある公認会計士から、たまたまこの問題を聞いた。その後、5県で起きた紛争を取材すると、夫婦間の事情は様々でも、片方の親 が子を連れて突然、姿を消す点は共通していた。子どもとの望まぬ別居を強いられる親たちの連絡会があり、全国に広がる問題である ことも知った。
昨年5月、国会での民法改正の審議の中でも、この原則の問題が指摘され、当時の江田五月法相は「合意ができる前に無理して子 どもを移動させて自分の管理下に置けば、後は継続性の原則で守られる、ということがあってはならない」と答弁している。
法相発言は法廷にどう響いているのだろうか。
千葉家裁で争いの当事者となった男性は「趣旨が徹底していない」と知人を通じて最高裁判所に抗議した。男性が法廷で法相の答 弁記録を示して「子どもの利益を第一に審査してほしい」と訴えたところ、家裁の裁判官が「法務大臣が何を言おうと関係ない。国会 審議など参考にしたことはない」と返した、という。
最高裁事務総局は「個別事案における裁判官の発言にはコメントしない」としているが、昨年8月には全国の高裁、家裁の裁判官 らに、民法改正に関する国会の会議録を読むことを求めた。
「夫婦や親子の関係は千差万別。この原則に代わる法律的な規範を作るのは難しい」「現状で子どもの養育に問題がなければ、そ れを変える決断には勇気がいる」と関係者は異口同音に指摘する。この原則で救われる人もいるだろう。しかし、原則だけでは、裁判 の前に力ずくで決着することにつながり、裁判官による裁判の否定になる。一件一件異なる争いだからこそ、家裁が双方の言い分を しっかり聞いて個別に判断する以外に方策はない。
大岡裁きの中に、2人の女性に子どもの両手を引っ張らせ、どちらが本当の母親かを決める場面がある。痛がる子の手を離したほ うが本物、という話だ。原則頼みでは、強く引っ張った親に軍配を上げることにならないか。