2012年07月12日 毎日新聞 『改正民法:離婚後の養育費、親子面会 取り決めなくても届け受理』
改正民法:離婚後の養育費、親子面会 取り決めなくても届け受理
◇「子を守る」法改正、実効性乏しく 知らない自治体職員も
未成年の子どものいる家庭で親が離婚する際、養育費と親子の面会交流について取り決めをするよう規定した改正民法が4月に施行された。離婚届には、この取り決めをしたかどうかチェックを入れる欄が新たに設けられた。しかし、印をつけるかは本人の自由で、取り決めがなくても届け出は受理されている。識者や当事者からは「子の権利を守るための法改正なのに、実効性が乏しい」との声が上がっている。【反橋希美】
「窓口で積極的にPRはしていません。離婚届を出される方から聞かれることもありませんし……」。大阪府内のある市の市民課職員は、離婚届の新しいチェック欄について、記入を促すよう声をかけるなどの対応は、特にしていないことを明らかにした。「戸籍の登録に必要な記入漏れがないかを確認することが重要な業務。新設された欄(の確認)は、そこまで注意を払うべきものとは思っていない」と職員は話す。
書式が変わった離婚届には、親子の面会交流と養育費の分担について「取り決めをしている」「まだ決めていない」のいずれかに印をつける項目ができた。だが、この変更について法務省は「法改正を周知するための措置」との説明。離婚届を受理するかには影響しないとの考えを示す。それが市区町村の窓口対応にも影響しているようだ。
家庭裁判所の調停や審判では、養育費と面会交流が子どもの権利として認められてきたが、これまでは法律上の規定がなかった。
日本では、当事者間で親権者さえ決めれば離婚できる「協議離婚」が9割を占める。家裁の審判や調停を経ない協議離婚の場合、養育費や面会交流が決められていないケースも少なくない。養育費を受け取っている一人親世帯はわずか2割弱。離婚後に子どもに会えなくなった親が面会交流を申し立てる調停は、10年前の3倍以上に達している。
法務省は民法改正に伴い、養育費や面会交流について説明したリーフレットを作り、各都道府県に送付した。自治体の窓口に置いてもらうことを想定していたが、自治体側の関心は高くなく、置いていない役所も目立つ。
関西の自治体で、戸籍を扱う部署に勤める40代の男性職員は「今回の法改正を知らない職員さえいる」と漏らす。
この職員は自身も離婚を経験し、離れて住む子どもに数カ月会えなかったことがある。「養育費と面会交流の取り決めがない父母の相談に、第三者の立場から役所が乗る仕組みが必要だ」と話す。
母子家庭の支援を行っているNPO法人「Wink」(東京都)の新川てるえ理事長は「離婚届が変わっても、今のままでは実効性はないに等しい。養育費や面会交流をどう決めたらいいのか、国がガイドラインを作り、行政が窓口で情報を提供すべきだ」と訴えている。
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民法改正でより注目を集めるのが、離婚後に連絡を取り合うことが難しくなった父母の間に立ち、面会交流を援助するサービスだ。厚生労働省は今年度から、面会交流の支援事業をする自治体に費用の一部を補助する制度を始めた。だが事業を始めたのは、今のところ東京都だけだ。