2012年06月20日 朝日新聞(マイタウン島根) 『司法つれづれ 「子の利益」大人の責任』
「子の利益」大人の責任
◆裁判官/早田久子さん◆
松江の地家裁で民事と家事の事件を担当するようになって、1年ちょっとが過ぎました。
離婚など家族にまつわる事件を担当していると、親権や離れて暮らす親と子どもの面会交流、養育費といった問題を巡る争いの中で、何ともやりきれない思いをすることが多々あります。それは大人の世界の争いに、本来無関係なはずの子どもたちが巻き込まれる場面を目にするときです。
離婚しようとする本人たちが、相手の非を責め、自分を正当化しようとするのは、ある意味仕方のないことです。しかし、いろいろと事情はあるにしても、「子どもには絶対に会わせない」とか、「勝手に出て行ったやつに養育費なんて払えるか」とか言うのは、子どもから見たら、迷惑な話ではないでしょうか。
ほかにも「跡取りだから長男だけは置いていけ」(仲良しきょうだいを引き離しちゃうの?)とか、「あの子はパパに会いたくないって言ってます」(ホントはパパ好きの子に、無理させちゃってない?)とか聞かされると、子どもたちの気持ちや将来の暮らしぶりを想像して、ため息が出てしまいます。
今年4月に施行された新しい民法の規定には、離婚後の子どもの監護について取り決めをする場合、「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」と書かれています。子どもの利益を守るのは、周囲の大人たちの責任です。「子ども最優先」という意識がすべての人に浸透していくことを、心から願っています。(松江地家裁判事)