2012年01月31日 北海道新聞 『ハーグ条約 子の利益まず考えたい(1月31日)』
ハーグ条約 子の利益まず考えたい(1月31日)
政府は、国際結婚が破綻した夫婦間の子どもの扱いを定めた「ハーグ条約」加盟に向けた法整備を進めている。通常国会に提出する考えだ。
条約は、離婚した夫婦のいずれかが無断で16歳未満の子を海外に連れ出した際、子をいったん元の居住国に戻すことを原則としている。
国内には、加盟に反対論がある。しかし、主要8カ国(G8)で未加盟なのは日本だけだ。このままでは、子連れで日本に帰国した親が、元の居住国に戻った際に誘拐犯などで摘発される可能性が高くなる。
国際ルールに加わることは妥当な判断ではないか。
加盟すれば子を連れ去られた親は子を手元に戻しやすくなる。半面、同居している親子を引き離す場合もあり、子に心の傷が残るだろう。
何よりも子の利益を最優先に考えるべきだ。政府は当事者の状況にきめ細かく対応できるよう関連法を整備する必要がある。
法相の諮問機関である法制審議会がまとめた関連法の要綱案は、子の返還の具体的手続きを明記した。
外国にいる元配偶者が子の返還を日本の家庭裁判所に申し立てると、家裁は子の意見に配慮したうえで元の国に戻すかどうかを決める。
国内の親が返還決定後に子を戻さなければ、最終的に家裁が子を強制的に元配偶者に引き渡す。
問題は、どのような場合に返還を拒否できるかだ。
加盟国の関連法にあるように子自身が戻ることを拒否している場合のほかに、返還すると子や国内の親が暴力を振るわれる恐れがある状況も独自に加えた。
子を連れて帰国した日本人女性の多くが夫の暴力を訴えて、加盟に反対しているからだ。
親に対する暴力に配慮した例は加盟国にはほとんどなく、欧米各国は「拒否できるのは子に耐え難い重大な危険がある場合のみ」として厳格な適用を求める。
条約の運用は、子が現在いる国に委ねられている。政府は日本の事情を諸外国に説明し、理解を得る努力をすべきだ。
子を勝手に連れ帰ったとして、諸外国から日本政府に昨年末までに約200件の訴えが寄せられた。トラブルが多いのは、親権をめぐる考え方の違いにも原因がある。
欧米では離婚後も双方の親が子育てをする「共同親権」が主流なのに対し、日本では父母どちらかの「単独親権」しか認められていない。
離婚後、日本では単独親権を口実に片方の親との関係を絶たれる子が多い。条約加盟を、親権のあり方について再検討する機会としたい。