2012年01月27日 信濃毎日新聞 『ハーグ条約 子どもの利益守る運用を』
ハーグ条約 子どもの利益守る運用を
「ハーグ条約」の加盟に向け、政府は通常国会に関連法案を提出する考えだ。法制審議会の部会が、要綱案をまとめた。
ハーグ条約は、国際結婚が破綻した夫婦間の子どもの法的扱いを定めたもの。一方が相手に無断で子どもを国外へ連れ出し、もう一方が子どもの返還を求めたとき、条約加盟国は子どもの居所を探し、元の居住国に戻す義務を負う。
部会の要綱案では、子どもの返還を求められた場合、家裁が子どもの意見を考慮したうえで可否を決める。親が返還命令に応じなければ、元の居住国へ子どもを強制的に返すこともできる仕組みだ。三審制を採っている。
日本は主要国(G8)のなかで唯一、条約に未加盟だった。日本人の母親が子どもを連れて帰国するケースが圧倒的に多いため、加盟には根強い反対意見がある。
ただ、現状のままではよくない。日本人の親が子どもを連れ帰る行為が、元の居住国で誘拐や拉致と取られ、裁判になる事例が相次いでいる。
逆のケースもある。外国人の元配偶者が子どもを母国に連れ帰った場合、日本がハーグ条約に加盟していないため、引き渡しを求める国際的な手続きが取れない。
昨年春、米在住ニカラグア人男性と離婚した日本人女性が、無断で長女を連れ帰ったとして親権妨害の疑いで米国で逮捕された。裁判で女性は司法取引に応じ、長女は元夫のもとへ戻された。
国際離婚は増える傾向にあり、2009年の厚生労働省の統計でおよそ1万9千件に上る。国境を越えて親権を争うケースが今後も増えると予想される。混乱を長引かせないためにも一定のルールが必要な時期にきている。
運用では、子どもの利益を最優先とすることを徹底したい。
夫婦が別れても、子どもにとって両親であることには変わりがない。離れて暮らす親ともふれあいつつ育つことは、子どもの権利でもある。
ただし、夫婦の破局の背景に、暴力や虐待が潜んでいる場合がある。要綱案では、子どもや配偶者に危害が及ぶおそれがあるときは返還を拒めるとしている。子ども自身が元の国へ戻るのを望まない場合も、返還を拒否できる。この見極めがカギになる。
子どもは親の感情に敏感だ。親をおもんばかり本心を隠すこともある。家裁が、子どもの本音を引き出し、最善の選択を探れるよう環境を整えてもらいたい。