「子ども連れ去り」で飛び出した裁判官の〝トンデモ″発言
週刊朝日 2011.12.23 (p.143)
「子ども連れ去り」で飛び出した裁判官の〝トンデモ″発言
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冤罪の例は言うに及ばず、日本の司法が抱える矛盾は数多い。今度は離婚トラブルに端を発した、子どもの連れ去り問題を協議する場での裁判官の発言が、波紋を広げている。
「トンデモ発言」が飛び出したのは今年5月27日、千葉家庭裁判所松戸支部でのこと。くしくもこの日、改正民法が国会で成立していた。その内容は後述するが、自身の離婚審判に臨んでいた30代の父親は、改正案が審議された国会の会議録などを示し、「子どもの利益を第一に考えた審査をしてほしい」と、担当の若林辰繁裁判官に訴えた。
ところが若林裁判官は、こう言い放ったという。
「法務大臣が国会で何を言おうと関係ない。国会審議など、これまで参考にしたことは一度もない」
父親は驚いた。司法は立法府から独立した存在であるとはいえ、裁判官は立法者、すなわち国会が定めた法律に拘束される。憲法にもそうあるではないか。
「立法者の意思をまったく無視して法解釈していいと判断する根拠はなんですか。司法は立法府より上の立場ということですか」
こう食い下がると、若林裁判官は、
「あなたと法律の議論をするつもりはない」
と、その場を立ち去ってしまったという。
この父親は昨春、3歳の娘を妻に突然、連れ去られて以来、妻側から身に覚えのないDVで訴えられ、疑いは晴れたものの、その後もわずか数時間の面会を何度か許されただけだ。もう1年以上、会っていない。
妻とは別れても、自分が娘の父親であることに変わりはない。何より子どものために、離婚後も両親が子育てにかかわるのが望ましい。子どもを自分が育てる代わり、妻側には年間100日、娘と会わせるとの譲歩案を示している。
実は、こうした子どもの連れ去り・引き離しは国際結婚のみならず、日本人夫婦の間でも相次いでいる。わが子との交流を一方的に断たれた親が悲観して自殺するケースも複数、報告されている。そうした現状も踏まえ、離婚時に子どもとの面会交流の取り決めを定めることをうたった改正民法が、ようやく成立した。江田五月法相(当時)は、
「たとえ別れた元夫、元妻との交流であっても子の健全な育成のためには重要」
「例外はどんな場合でもありうるが、(面会交流の実現に)努力をしようというのが家庭裁判所の調停または審判における努力の方向だ」と国会で明言。
さらに最高裁の豊澤佳弘家庭局長も、「子どもの健やかな成長、発達のために双方の親との継続的な交流を保つのが望ましい」と答弁していた。
この「トンデモ発言」はいまや多くの関係者の知るところに。最高裁広報課は、
「個別案件における裁判官の発言についてコメントすることは差し控えたい」
しかし、最高裁自身がこの発言を問題視したことは、その後、改正案が審議された国会の会議録を職員に回覧するよう求める文書が、最高裁から全国の高裁、家裁あてに出たことからもうかがえる。
だがある裁判官OBは、その効果を疑問視する。
「裁判官は自分が担当する事案では何がなんでも自分の意見を通しますから、最高裁が何を言ったところで、態度は変わりませんよ」
誰のための司法なのか。
本誌・佐藤秀男