2011年09月04日 時事通信 『日米、埋まらぬ溝=制度と価値観の違い背景に – 子の連れ去り問題』
日米、埋まらぬ溝=制度と価値観の違い背景に-子連れ去り問題
【ワシントン時事】米政府が国際結婚の破綻に伴う子の連れ去り問題で強硬姿勢を鮮明にしたのは、双方の問題意識の隔たりが極めて大きく、このままでは同盟関係の障害になりかねないとの危機感があるためだ。隔たりの背景には、日米の親子関係をめぐる制度や価値観の違いがある。
問題になっているのは主に、米国人の夫と別れ、無断で子を日本に連れ帰る日本人女性のケース。米国では、離婚時に子の養育をめぐる義務や権利を裁判で細かく取り決める。両親との交流を保つのが子の利益という意識が強く、別居する親にも面接交渉権が保障される。
女性側が子連れ帰国を望んでも語学の壁や経済力の問題がある場合、単独親権を得た上での帰国は極めて難しく、「実力行使」に出る女性が後を絶たない。米国務省が把握している日本への子の連れ去り事例は計123件173人に上る。
離婚後は母親に単独親権が与えられる例が圧倒的に多い日本では女性の行為を問題視する空気は薄いが、米国では実子誘拐に当たる。連邦捜査局(FBI)に指名手配された日本人女性もいる。
配偶者暴力(DV)を逃れて帰国したとされる女性の存在も、日本のハーグ条約加盟慎重論の根拠になってきた。加盟後は不法に連れ去られた子をいったん元の居住国に戻すことが義務付けられるため、子に付き添う被害者の女性を保護できないという懸念がある。
一方、米国人の親は、日本に子を連れ去られればなすすべがない。「民事不介入」の原則もあって既存事件への対応に及び腰な日本側の姿勢は、一部のDV事例を口実にした「拉致支援」と映る。
日本政府は批准に向けて整備中の国内法に子の返還拒否事由としてDVを明記する方針。米側は返還拒否が乱発されたり条約適用対象外の既存事件が置き去りにされたりすることを警戒する。条約加盟という形式が整っても、実態が変わらなければ、双方の摩擦は続くことになる。(2011/09/04-17:23)