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2009年06月10日 ニューズウィーク日本版 『日本にも無縁ではないブラジルとアメリカの親権争い』

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日本にも無縁ではないブラジルとアメリカの親権争い

 先週、私の住むニュージャージー州では、1人の男性がブラジルから戻ってきて怒りの記者会見に臨んでいました。男性の名前はデビット・ゴールドマン氏といって、ブラジルに住む一人息子を取り返そうとして果たせなかったというのです。ゴールドマン氏の妻はブラジル人でしたが、その妻は現在8歳になる息子のショーン君が4歳の時に、ゴールドマン氏をアメリカに残したまま、「実家に帰省してくる」と言ってブラジルに向かいました。

 直後にゴールドマン氏にはブラジルから連絡があり、妻は「もう私たちの結婚は終わった。ショーン君は自分が育てる。親権を放棄する旨の書面に署名しない限り、ショーン君には会わせない」と一方的に通告したのだそうです。ショーン君の母親は、ブラジルの法律に従ってゴールドマン氏と離婚して、別の男性と結婚したのですが、その男性との子供を分娩中に不幸にも亡くなったのでした。ゴールドマン氏は、自分だけがショーン君と血のつながった親なのだから自分に親権があるべきで、ショーン君を返してもらいたいと法廷闘争に訴えたのですが、ブラジル最高裁はゴールドマン氏の訴えを認めなかったのです。ショーン君は、現在はブラジルで母親の再婚相手の男性に育てられています。

 この問題はメディアで大きく取り上げられ「アブダクション(拉致)」事件として注目を浴びています。更にゴールドマン氏を支援している下院議員を通じて政治問題化しており、国務省も深刻な問題として取り上げています。この問題を解決するために「ブラジルとの貿易に関税を設定して経済制裁を」という動きすら出てきているのですが、それだけアメリカ社会としては真剣な扱いがされているということだと思います。

 この問題は実は日本にも無縁ではありません。国際結婚が不幸にして離婚という形を取った場合に、アメリカの裁判所で親権がどちらに(あるいは双方に)あるかを確認する前に、子供を日本に連れ帰ってしまう例がかなりあるのだと言います。この問題については、アメリカの国務省はかなり神経を尖らせており、対応を間違えるとブラジルとのような国家間の問題になりかねないのです。問題を複雑にしているのは、国際法の枠組みです。国境を越えて親権の争いができた場合の処理に関しては、ハーグ条約という国際法で取り決めがあるのですが、ブラジルの場合はこの条約を批准しています。ハーグ条約に入っていながら、国内法を優先してショーン君を返さないということになっているのです。

 ところが日本の場合はこの条約を批准していません。しかも、条約を批准していない国の中で、アメリカから見ると最も多くの事例を抱えているのです。カナダからも外交ルートで同様のクレームが来ているようです。ですから、仮にブラジルのショーン君の問題がアメリカで更に関心を呼ぶようになって、日本との間でも多くの問題を抱えていることが広く知られるようになり、その結果、アメリカの親が政治家などを使ってくるようだと、大変なトラブルに発展する可能性を秘めているのです。

 では、どうして日本はハーグ条約を批准していないのか、日本とアメリカの間で(100件以上と言われています)親権の争いが起きるのかというと、それは日本とハーグ条約の締結国との間で社会慣習に大きな差があるからです。簡単に言うと、日本の場合は、(1)両親が離婚した場合に親権はどちらかに行ってしまい、共同親権というシステムはない。(2)子供は母親が育てるものという観念が強く、父親側が親権を獲得するのが難しい。(3)親権のない方の親には面会請求権があるが、親権を持つ親がない方の親に会わせない場合の罰則規定が弱い。(4)親権のない方の親が再婚した場合、その後は子供との面会をしない、させないという慣習が大なり小なりある、といった問題があります。これはハーグ条約の精神には反するのです。

 私は、こうした人情の機微に関わる問題を「外圧」に翻弄されながら受け身的に決めるのには反対です。それでは人や社会の自尊心はどこにあるのかということになるからです。また、この問題は渡航移植の自粛を求めるWHOの指針案に押し出されるように改正をしなくてはならなくなった臓器移植法の問題に似ていますが、臓器移植法よりも更に複雑な問題を抱えています。共同親権の導入(ハッキリ言えば、子供が一定期間毎に父親の家と母親の家を行ったり来たりするシステムです)や、面会請求権違反への罰則規定(欧米では、会わせないということが、誘拐罪とされて親権を喪失する可能性があります)といった問題は、広い範囲で関連法の改正を要求するからです。

 というわけで非常に大変な問題なのですが、受け身的ではなく積極的な人生観・家族観の変更をする中で、あるいは少子化対策の一環として離婚後の両親との関係という問題を世界標準に近づけてゆくことは必要だと思います。そしてハーグ条約を批准して、アメリカやカナダとの外交問題を回避することは、やはり日本にとって必要なことだと思うのです。この点から見ても、ショーン君の問題は日本にとって、全く他人事ではありません。

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修了(修士、日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。主な著書に『アメリカは本当に「貧困大国」なのか?』(阪急コミュニケーションズ)、『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)など。
メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」を毎週連載中。新刊電子書籍「FROM 911、USAレポート 10年の記録」(G2010刊)を、iPad/iPhoneアプリとしてAppleストアにて発売中。

  • 家裁通信簿~民法766条改正で家裁は変わったのか~
  • おかしくないか!日本の弁護士・弁護士会
  • りこちゃんキャンペーン 親子の絆を守るためのキャンペーン
  • 「共同養育を求める」署名活動の報告
  • 民法改正の趣旨を無視する裁判官・調査官の是正を求める最高裁への意見書
  • 親子の引き離しに利用されている「とんでもないDV」「ありえないDV」問題に関するアンケート調査報告書
  • 面会交流および子どもの変化に関する実態調査
  • DV防止法を悪用した「子どもの連れ去りと親子引き離し」の禁止を求める要望書
  • 「面会交流への柔軟な対応を求める」要望書
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