【2015.05.30】 親子ネット講演会レポート「離婚後の子ども養育に関して出来ること ~子どもの視点から考える離婚後の子育て~」
今回は、小田切紀子先生(東京国際大学教授 心理学博士)丸井妙子先生(翻訳家 家事調停委員)の両先生をお招きし「離婚後の子ども養育に関して出来ること-子どもの視点から考える離婚後の子育て‐」というテーマでご講演を頂きました。
当日はこの問題に関心を寄せていただいている議員の先生方、新聞記者の方、ならびに北海道から九州までの全国各地の当事者の皆様が参加いただき満席となる盛況ぶりでした。以下、両先生のご講演について報告します。
1.小田切紀子先生
小田切先生には臨床心理士として多くの離婚家庭の子ども達と接してきた経験と心理学者として米国で最新の実証研究に携わってこられた立場からご講演をいただきました。
・子どもにとっての離婚
子どもにとって、親の離婚はどんな形であろうと受け入れざるを得ない結果として提示されることが多い。離婚は子どもにとって一大事であり、何より今後の生活で心配事を抱え込まないようにキチンとした安心できる説明をすることが重要であり、親の責任である。
・子どもの声
子どもへのインタビューで一番多いのは、親の離婚の説明がないことへの不安・不満がある。その他、再婚後は親に会えなくなるのがつらい、言い出しづらい、学校(友達・教師)での偏見、気軽に相談できる人が周りに見当たらない、面会交流をしていない場合でも高校大学になると自分のルーツを知りたい、一度でも実親を見てみたい、との声が上げられる。
・子どもが求めているもの
学費の問題や、親には話しづらい事を親身になって聞いてくれる祖父母や親戚、専門家(スクールカウンセラーなど)の援助、同じ境遇の子どもと交流の場、などが必要。再婚家庭の場合でも、子どもが混乱するからという理由で会わせないより、離れて暮らす実親との関係を続けた方が子どもにとって良好だという研究結果がでており、再婚で面会が中断されないように、その受け皿としてサポートできる機関が必要である。
・離婚した親と子どもを対象とした心理的サポートプログラム
子どもは、離婚での不安・心配・行き場のない怒り・葛藤を抱えている。これらをどの様に緩和していくか、親の離婚を子どもが乗り越えていくためには親はどのように子育てをしていったらいいのか、離れて暮らす親がどのように子どもと関わり親としての責任を果たしていけば良いのか、ステップファミリーの場合はどうか、などの問題に直面したとき当事者のみで解決策を見つけることは難しい。専門家によるサポートが必要である。
米国では離婚した(する)家族に対してFIT(Family In Transition)という心理プログラムが開発されており、州によっては離婚の成立要件として司法過程に組み込まれている。小田切先生らは研究チームを立ち上げ、これを日本流にカスタマイズしたプログラム(日本名 FAITプログラム)を作成し、現在、兵庫県明石市などで実施している。
こういったプログラムを利用して両親が養育プランを作ることで子どもの事を中心に考えるようになる、作ったものだけでなく、作る過程そのものに非常に意味がある。
2.丸井妙子先生
丸井先生には、これまでの教員生活や家事調停委員としてのご経験を踏まえた話、ならびに、単訳本「別れてもふたりで育てる」の出版に至った経緯などについてご講演をいただきました。
・この本の内容を伝えたい
今までの教員生活を通じてしだいに子どもの様子の変化に気づくようになった。やる気がない、自分に
自信を持てない、そんな子どもが増えている実感があった。調停委員となってから親の離婚で辛い思いをしている子どもが大勢いることに気づく。そんなおり、米国のキャロル博士の本『別れてもふたりで育てる』に出会った。親子ともども、どのように離婚を乗り越えたらいいかについて、具体的にわかりやすく解説されていた。この内容を伝えたいと1年かけて翻訳し、なんとか出版にこぎつけた。
・別れた後の子どもの気持ちを知る
パパ・ママどっちも大好きなのに・・子どもは親と別れる悲しみを感じている。自分も親に見捨てられるのではないかと感じている。一方の親にもう一方の親の悪口を言われるのが自分の半分を否定されたようで辛い。自分がいい子にしていればいつか仲直りしてくれるはずと期待してしまう。だが報われない。自分の感情に蓋をしてしまう。だまって我慢してしまう。親だからこそ言えない自分の感情がある。親から見放されたと感じてしまう。子どもの気持ちを自覚して、子どもの現在・未来の幸福が脅かされないようにしなければならない。
・子どもの立ち直りを協力して支える
親自身がまず元気を取り戻す。被害者意識を捨てる。離婚後は夫婦の関係から子育ての協力者としての関係を再構築する。お互いを許す(水に流すという意味ではない)。
面会交流は食事だけとかではなく、何気ない日常を共有し、時には優しく、時には厳しく接する。たとえ、元配偶者が協力してくれなくても、子どもの気持ちを理解し、愛情をたっぷりと注ぎながら、年相応のルールを設け、毅然とした態度で子どもに接する。子どもと良い関係を築きつつ皆様の今後の人生が素晴らしいものとなっていくように祈念いたします。
講演を終えて
日本は「子どもには両親が必要」という意識が強いが、離婚後には一転して別居親排除になってしまうそうです。 離婚しても両方の親がその親責任を全うできる社会に変わっていかなければならないと思いました。
小田切先生の心理的サポートプログラムは他の各自治体でも導入の動きがあるそうです。今後、さらに発展拡大していくことを期待したいと思います。また、ご著書の中にも実例を踏まえた形で離婚後どうやって子どもや元配偶者と接していけば良いか実践的な手法が紹介されていますので皆様もご一読して頂ければと思います。
丸井先生の講演の中に「お互いを許す」というお話がありました。許す(forgive)の意味は憎しみ怒りを手放すという意味も含まれているそうです。水に流す(forgive and forget)という意味ではなく、過去のことも忘れる必要はないそうです。お互いにforgiveの気持ちを持ち、親同士の対立を止めにして、子どものことのみで協力できる関係になりたいと思いました。
様々な事情で離れて暮らすことになったとしても、お互いが子どもをはじめて抱っこしたときのあの気持ちを忘れずに持ち続け、子どもの方を向いて協力することができれば、大概の問題は解決すると思います。
親子ネットは今後とも皆様方の親子関係がより良いものになっていくよう微力ながら誠意をもって取り組んで参ります。今回、ご講演頂きました両先生ならびにお忙しいなか遠方よりお集まりいただきました皆様に改めて感謝申し上げます。ありがとうございました。