【2020.08.01】 【関連記事】アゴラ EUが日本非難!「子ども連れ去り」を止める法改正を
◆アゴラ
EUが日本非難!「子ども連れ去り」を止める法改正を
「もう、嘘をつかないでもらいたい」「認識があまりにも低すぎる」ーー。
国会議員らが、外務省と法務省の役人を厳しく追及する一幕があったのは、7月30日に衆議院議員会館で開かれた「共同養育支援議員連盟」の総会でのこと。
背景には、日本国内の離婚時の子どもの連れ去りに関して、7月8日に欧州連合(EU)議会で可決された日本への非難決議に対し、「EUの指摘には誤解されている部分が多い」「日本はきちんと対応している」とあくまで責任を回避しようとする法務省と外務省の煮え切らない態度がある。
非難決議によって、日本は「人権意識の低い国」との烙印を押され、EUと日本のパートナーシップは危機的状況にあると言っていい。このEUとの友好の危機を回避するためにはどうすれば良いか。これまでの経緯を振り返りながら考えたい。
<きっかけはフランス、イタリア出身の父親の訴え>
今回のEU非難決議は、EU出身者と日本人の夫婦が離婚するとき、日本人の親が日本国内で子どもを一方的に連れ去り、別れた相手と面会させないことなどを禁止する措置を迅速に講じるよう、日本政府に求めたものだ。こうした子どもの連れ去りについて「子どもへの重大な虐待」とし、子どもの権利条約に反していると指摘する。
自民党の三谷英弘・衆議院議員は、議連の総会の中で「EUがほかの国に対する非難決議行うということは、基本的にはない。北朝鮮などに対して、人道的に緊急を要する場合はあるかもしれないが、それが日本に対して出されたということは、非常に重いこと」と指摘した。
この決議の出発点は、国内で実子誘拐にあったフランスとイタリア出身の父親の訴えだ。
フランス出身のヴィンセント・フィショ氏と、イタリア出身のトッマーソ・ペリーナ氏(いずれも東京都内在住)は、ともに日本人パートナーとの子どもを連れ去られ、自分の子どもと会えないどころか、電話1本できず、写真すら見ることができない状況が続いている。
彼らは、日本国内で子どもと引き離されたほかのEU出身者と一緒に、昨年から欧州の各国政府、国連などに出向き、日本国内の連れ去りをやめるよう、日本政府に訴えかけるように働きかけを行っている。その一環で、彼らのケースを「EU請願委員会」に訴えかけた。これがEU議会での調査につながり、今回のEU決議に至ったものだ。
ペリーナ氏は、「私たちのケースを日本が調査して、子どもたちを家に帰すことで、日本が人権問題に真剣に向き合っていることを国際社会に示すことになるでしょう」と話し、フィショ氏は「私たちの子どもたちを家に戻すことは、日本国の利益。その前例をつくることで、日本のすべての子どもたちにとっても、直接的な利益になると信じています」と彼らの働きかけの意味を語った。
<EU決議に対する外務省のトンチンカンな回答>
EU決議について、記者会見の場で見解を求められた茂木敏充・外務大臣は「国内法制度に基づいて、国籍による区別なく、公平かつ公正に対応しており、決議にあるような国際規約を遵守していないという指摘は全く当たらない」と答え、さらに「法務省で取り組んでいることであり、法務省に聞いてもらいたい」と法務省へ責任を丸ごと押し付けた。
また、議連総会に出席していた外務省の担当者は、前出の国内で連れ去られた場合には適用されない「ハーグ条約」について、その取り組みを説明し、日本は「遵守している」と回答。
これに対して、日本維新の会の串田誠一・衆議院議員は、「EU決議が問題にしている主な問題は、(ハーグ条約の事例でなく)国内の連れ去り問題であり、国内の連れ去りは何件あって、何件返されたのか、その数字を示さないと、対策を検討すらできない」と断じた。
それに対する外務省担当者の「外国人にどうやって説明したらいいのか、法務省を連携して取り組んでいきたい」との言葉に、会場の議員席からは失笑が漏れた。
EU決議について、外務省が繰り返し「指摘は当たらない」「日本は条約を遵守している」と回答することで、日本が真剣にこの問題に向き合っていないことを示す格好になっていることを、国益を損ねる形になっていることを、外務省の役人たちは理解しているのだろうか。
<「養育費」問題の解消には熱心な法務省>
法務省ではこれまでに、海外の24か国を対象に、離婚後の親権制度や子どもの養育のあり方について調査をしたり、親権制度の見直しの当否を検討する「家族法研究会」を7回にわたり開くなど、対応に当たってきた。
また法務省は、厚労省と連携して積極的に、養育費の不払いの解消に向けた取り組みを進めている。自民党女性活躍推進本部の猪口邦子本部長らが6月に、首相官邸で安倍晋三首相と会い、養育費の不払い問題で対策を提言し、それに取り組む同省の検討会議は年内をめどに取りまとめを行う予定で、積極的に進めている。
この問題を国会での質疑でもたびたび取り上げてきた嘉田由紀子・参議院議員は、自身のFacebookで「日本の民法819条で単独親権が決められ、片親の親権や子どもとの交流が公的に奪われながら、養育費支払いだけを義務化することは国家の法制度としてバランスを欠いているのではないか」「養育費の義務化は共同養育や共同親権とセットだろう」と指摘。
前出の三谷議員も総会の場で、「養育費だけ進めて、面会交流がおざなりにされることがないように、確認したい」とくぎを刺した。
共同養育への法改正が、問題を打開する唯一の方法
日本国内で、一方の親から子どもを奪う人権侵害が横行しているとのEUからの指摘に、「子どもの権利条約」を管轄しているはずの外務省は「指摘は誤解だ。法務省に聞いてくれ」と逃げ、法務省は養育費の問題には熱心だが、共同養育への具体的な法改正については、いつ、どのように取り組むのか曖昧な姿勢のままだ。
このままの態度が続くのであれば、日本とEU間の政治・外交・社会関係の緊密化を目的として結ばれた「日EU戦略的パートナーシップ協定(SPA)」についても、「見直しも検討せざるを得ないだろう」と、ペリーナ、フィショ両氏は案じている。
議連の総会では、EUとの関係悪化の「問題を打開する唯一の方法は法改正だ」とし、議連の会長で自民党の馳浩・衆議院議員が、今後の方針として「連れ去り問題について、国内の無法状態についてどう対応するか検討し、離婚後の共同養育のルール化を制度としてしっかり作ること」を確認した。
日本は、EUからの指摘を真摯に受け止め、子どもの連れ去りを防ぎ、子どもたちが自分の親に自由に会える権利を制度として保証し、EUとの友好の危機を、回避できるのだろうか。EUは怒っている。時間はない。
この事態は、適切に対応することで日本が人権侵害に真摯に向き合う国だと示す好機なのだと、とらえたい。