【2020.07.14】 【関連記事】弁護士ドットコム 共同監護にコミットした高裁決定「家庭が壊れた子供はもろい」棚瀬孝雄氏
◆弁護士ドットコム 棚瀬孝雄氏ロングインタビュー
共同監護にコミットした高裁決定「家庭が壊れた子供はもろい」
棚瀬氏の実務の中で、ユニークなものとして、離婚・別居により子供が片親と会えなくなる事件の弁護がある。「きっかけは、ハーバードのロースクールで教えた際の経験。同じ法が日米でどう違うか、日本的契約慣行、政治の渦中に置かれた憲法9条などを学生に文献を読ませて議論しました。その中で家族法の問題も取り上げようと、監護紛争を調べて驚きました」 当時の唯一の最高裁判例は、年2回、娘に会わせてほしいというささやかな願いを拒否された父親が、憲法13条の幸福追求権の侵害を理由に上告したのに対し、「原審が何が子の福祉を考えて判断したもので、憲法の違反を言う余地はない」としたものだった。 「大きな衝撃を受けました。アメリカでは決まって、『相当の面会を認める』と、隔週2泊3日で、別居親の家に泊まりに行っており、この差がどうして生まれたのか、家庭という枠を超えて、子供が、別居親とも親子のかかわりを持っていく社会を深く考えさせられました」 帰国後、日米の比較考察を行った論文を執筆。子供に会えずに苦しんでいる人たちの目に留まり、弁護士になってから、依頼者が集まるようになった。また、妻一代氏(故人・神戸親和女子大学教授)も、心理学者としてカウンセリングをする中で、離婚で子供が受ける心の傷を問題視していた。夫婦で、離婚・別居で親子が切り離されることに心を痛め、親権の問題に関わることになった。 現在、棚瀬氏は、共同親権の導入(離婚後の共同監護の実現)に力を入れる。国会議員が参加する院内集会などに積極的に出席し、外国の法制に詳しい専門家、また、数多くの事件を手掛けてきた実務家として、導入に向けた運動の理論的支柱になっている。 「家庭が壊れた経験を持つ子供たちはもろいという意味で、離婚という体験は子供に傷を残す。アメリカの心理学研究をみると精神疾患になったり、ひきこもったり、暴力したり、薬物などの犯罪に走る確率が、離婚を体験していない子供と比べて何倍もある。だから、離婚の問題は、子供の将来のために考えてあげないといけない。 共同親権が実現して、子供が自分には父も母もいるという安心感を持ち、両方との結び付きが維持できれば、離婚の痛手を最小にできる。そういう社会を作りたいというのが、私の共同監護の理念です」 2019年10月に、東京高裁のある決定があった。月1回7時間の面会交流が命じられたのに、一切実施されないことに対して、同居親の母への間接強制を認めた家裁支部の決定に対する執行抗告で、母は「子供が会いたくないと言っている」と主張。棚瀬氏は、同居中の父親との仲の良さを立証し、父子が母抜きで会った際に、口を聞かない理由について、子供が「パパに味方したらママがカンカンに怒るでしょう」と発言した録音などを証拠として提出した。 「母が、同居する子供に『父か母か』の二者択一を迫るから、子供は『お父さんに会いたい』と言えない。つまり、面会交流が実現しないのは、子供の意思ではなく、母こそが会えなくしている。間接強制は、この母に『会えなくすることはやめなさい』と迫るものであると主張しました」 東京高裁の深見敏正裁判官は、棚瀬氏の主張を認め、「面会交流は、抗告人が自分の側に付くのか、相手方の味方をするのか、という態度を直接的にも間接的にも示さず、未成年者らを抗告人と相手方との紛争に巻き込まないようにすることで実現できる以上、間接強制は抗告人に不可能を強いるものでない」と判示した。 棚瀬氏は決定の意義について振り返る。 「まず、面会交流が実現しない原因を母親と認めた点で画期的だった。さらに、母親が暗黙のうちに二者択一を迫ったこと自体を問題と主張し、東京高裁が受け入れたということは、子供にとって、父母両方に愛着があって、両方いるのが幸せなんだというという前提があったと言える。今回の決定は、共同監護にコミットし、認めた画期的なものと考えています」