2012年06月21日 スーパーニュース アンカー 『離婚後の“単独親権”を考える』
離婚後の“単独親権”を考える
日本では今や年間23万組を超える夫婦が離婚するという現実もあって、離婚した後の子どもの親権をめぐって争いになるケースが急増しています。
日本は離婚した男女のどちらか一方が親権を持つ「単独親権」制度のため、親権を持たなかった側は子どもとの面会が十分に認められない傾向が大きいというのです。
【寺前さん】
「こんばんは。昨日はサッカー見た?え?お前、日本代表見てないの?」
大阪府高槻市の寺前忠さん(44)には8歳の長男・健君(仮名)がいますが、姿はテレビ電話の向こうです。
一緒には暮らしていません。
会えるのは月に1回。
あとは週に1度、決められた時間にテレビ電話ができるだけです。
夫婦関係のこじれからおととし離婚し、健君が前の妻のもとに行ったためです。
【寺前さん】
「OK、OK、いいよ。ほんならなあ。バイバイ」
【寺前さん】
「本当は会えたら一番なんですけど顔がまず見えるということがいちばんですね。大好きな子どもですもん。大切ですもん、宝物ですもん。一緒にやっぱり住みたいなと思いますよ」
今や年間およそ23万5,000組が離婚する時代。
親が離婚した未成年の子どもはおととし25万人以上にのぼります。
日本はかつての家制度の名残で親権者を一人に絞る「単独親権」制度を現在もとっています。
そのため離婚した男女の間で時に子どもの奪い合いが生じ、親権を失った方の親が我が子と満足に会えないことがあるのです。
寺前さんの場合、家庭裁判所では健君を引き取ることを認められました。
しかし高等裁判所では一転して判断を覆され、「仕事の都合で十分に面倒を見ることができない」との理由で健君を前の妻に渡すことを命じられました。
【寺前さん】
「あなたは親じゃないんですよと突きつけられていることですから。子どもに会いたいんですよ。子どもの養育に携わっていきたいんです。それがさせてもらえないんです。それは逆に僕たちに育児放棄しろと言っていることと僕は同じことを言われているように突き刺さってくる、心に」
制度についての知識が乏しかった離婚前には今のような結果になるとは想像もしていませんでした。
【親子ネット関西】
「父、母で協力し合い、子育てが出来るよう共同親権、共同養育を…」
子どもとの面会を巡る家庭裁判所への調停申し立てはおととし7,749件と10年で3倍以上になりました。
離婚した男女に子どもがいる場合、親権はおよそ8割が女性側に渡るのが現状ですが、男性の育児参加が進み、子どもと関わり続けたいという声が男性側からもあがるようになっています。
【離婚した男性】
「今(子どもと)2年6ヵ月会えていない状態。人格形成とか成長とか教育とか、やっぱり父親という存在が絶対必要になってきますので、こうやって頑張っています」
日本も批准する国連の「子どもの権利条約」には「児童はできる限りその父母を知り、かつその父母によって養育される権利を有する」とあります。
アメリカ人弁護士のコリン・ジョーンズ教授は、先進国では離婚後も父と母が共に親権を持つ「共同親権」が一般的だといいます。
【同志社大学法科大学院 コリン・ジョーンズ教授】
「単独親権のどこが子どもに良いのかを考える必要があると思うんですよ。親の事情と親の事情のための手続きと、なるべくそれまでの親子関係を自然な状態で継続させることは別体系にすべきだと思う」
また、臨床心理士で家庭裁判所の調停委員も務めた専門家は子どもの発育上の問題を指摘します。
【神戸親和女子大学 棚瀬一代教授】
「父親が自分に会いに来ないっていうことは自分が愛するに値する存在じゃないから父親が自分を見捨てちゃったのではないだろうかとか色んな想像をする。やはり自分を肯定できないという自信のなさからそういうお子さんは抑鬱傾向に陥ってきますね」
【寺前さん】
「子どもと会えるのを楽しんだり喜びが出てきたり」
この日は月に1回、健君と面会できる日です。
車でおよそ3時間かけて愛知県岡崎市に向かいます。
【寺前さんと健君】
「プール行く、今日?」「何でプール行きたいの?」「プールで泳ぐ練習…プールのスライダーがやりたい」
子どもの健全な成長のためと位置づけられているのが「面会交流」です。
しかし日本では子どもへの精神的負担を理由に裁判所が限られた面会しか認めない傾向にあります。
さらに親権を持つ親の意向次第で子どもと会うことすらおぼつかないケースもあるのです。
寺前さんは約束された10時間で健君と一所懸命に遊ぶことを心がけています。
【寺前さん】
「成長を見る時ってこの日しかないんでね、僕にとっては。そりゃもう歯がゆいですよね。決められた月に1回の10時間ぐらいしかその時しか会えない。歯がゆいですよね」
許された時間はあっという間に過ぎていきました。
時間内に健君を母方の自宅に送り届けます。
【寺前さん】
「こっち、こっち」「参観日な、参観日な」
【寺前さん】
「お父さんがおってお母さんがおってどちらも好きというのが一番幸せな形なんでね。今はもう親権をとった者が10でそこから(片方の親が)『何とかお願いします。1カ月の中で1日下さい』というスタート。そういう風に決まっていますから、そうせざるを得ない形ですよね」
ことし4月から、離婚の際には親との面会などについて子どもの利益を最優先するようにと、ようやく民法に明文化されました。
しかし面会方法や回数などの具体的な基準は示されず強制力もありません。
今、改めて親子の絆のあり方が問われています。