【2011.05.25】 「国際的な子の奪取の民事面に関するハーグ条約」の批准に係る 国内法整備に関する声明
本声明文は要望書という形にして、菅総理大臣、江田法務大臣、松本外務大臣に提出しました。
また、新聞社などマスコミにも送付しています。
国内法整備に関する声明
平成23年5月20日に、「国際的な子の奪取の民事面に関するハーグ条約」の批准が閣議了承され、この条約の批准に必要な関連国内法が整備されることになりました。そこで、特に喫緊の対応を必要とする返還拒否に係る、連れ去り・引き離しに関連する国内法の整備・見直しについて、親子ネットの意見・要望を発表します。
1.家庭内暴力(DV)の判断・運用の公正化
条約批准国から子どもを連れ帰った多くの日本人は、DV被害を主張しています。一方、アメリカ合衆国などは、日本に子どもを連れ去った母親にDV被害は認められなかったと何度も公式発表しています。
この見解の違いは、単純に我が国と欧米諸国とのDVの認定範囲と運用ルールの違いによるものです。我が国では、DV防止法の対象に精神的虐待行為を含めているため、DVの範囲が広く、且つ、具体的な影響・被害が不明瞭です。
また、我が国のDV防止法では、警察等の捜査機関による詳細な被害の確認が必要とされていません。そのため、虚偽や夫婦間のちょっとした諍いでも、一方が被害を申し出るだけでDV防止法が適用され、子の連れ去り・引き離しが認められます。
親子ネットにも、DVや虐待を理由に、連れ去り・引き離しを受けている会員が多数存在します。中には、「車での送迎を頼んだら、勤務時間中と言って断られた」「ドライブ中に、運転に集中して話しかけてくれなかった」「出勤時に、子どもにキスをした」等をDVや虐待と言われて、何年も子どもと会えない会員もいます。
勿論、DV防止法は被害者を救うためのもので、真のDV被害者は救済されなければなりません。しかし、上記のような例が一方的にDVと主張され、なんら捜査・検証することなく、「言った者勝ち」で運用されている現状を変える必要があります。警察等の捜査を導入して、DVかどうかの判断を厳密に行い、親権・監護権獲得の手段として安易に悪用されないようにすることが必要不可欠なのです。
2.連れ去り・引き離しを容認する我が国特有の考え方の見直し
ハーグ条約の批准に反対する意見の中には、「別居時に妻が子どもを連れて実家に身を寄せるのは、我が国特有の風習である」というものがあります。
我が国を始め世界193ヶ国が批准している、国連子どもの権利条約第9条1項は「締約国は、児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する」、同条3項には「締約国は、児童の最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する。」と、子どもが父母の双方から愛情を受ける中で育つ権利を明記しています。
残念ながら我が国では、一方の親の同意なき子どもの連れ去りを罰せず、連れ去りと同時に他方の親に子どもを会わせないケースは極めて多く、「児童の権利条約」に明らかに違反していると言わざるを得ません。
片親との引き離しを受けた子どもは、「戸惑い,混乱し,激しく悩み、場合によっては,うつ状態になったり、チックや脱毛など医学的身体反応を示す」と報告されています。引き離しを受けて成長する子どもは、自己肯定感を持てず、根拠のない葛藤を抱え込んだり、他人との信頼関係を築きにくい傾向があるとも言われます。
片親疎外(Parental Alienation: PA)と呼ばれるこれらの症状は、日弁連子どもの権利委員会が「子どもの虐待防止実務マニュアル」で定義した児童への精神的虐待の諸症状(強い不安や怯え、鬱状態、無感動無反応、強い攻撃性、習癖異常等、日常生活に支障をきたす精神症状)とよく一致するものです。欧米諸国では片方の親と子どもを引き離す行為は、誘拐や虐待として罰せられる場合もあります。
同意なく子どもを連れ去り、親子を引き離す行為は、日本の文化・風習という問題ではなく、子どもにとっても引き離された親にとっても明らかな人権侵害です。我が国でも、親子の引き離しを児童虐待の一つと見なし、引き離し行為を許さない社会へと転換しなければいけないと考えます。
江田五月法務大臣の答弁にもありましたように、私達は我が国の将来を担う子ども達に「両親が離婚しようと、父親と子、母親と子の絆を断たない社会を作らねばならない」のです。それは、国際結婚の子でも、国内での結婚の子でも、なんら変わるものではありません。ハーグ条約批准を契機に、我が国も欧米諸国並みに親子の絆を断たない社会へ進むことを強く望みます。
親子の面会交流を実現する全国ネットワーク(親子ネット)